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『青年と老人 一期一会』ウダ・タマキ

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 四十代であろうカップルは仲睦まじく会話を交わし、仕事帰りのサラリーマンは険しい表情でノートパソコンを睨み付けている。その横では、まるで対照的なおじさんが鼻の下を伸ばしてスポーツ新聞を眺める。おばさんグループは周囲に気を遣い、声を潜めているようだが笑いが起きるたびに店内に響き渡る。皆、過ごし方は違うが各々がカフェを十分に満喫しているようだ。
 こうやって観察をしていると面白い。その人の人生模様が見え隠れする。
「いらっしゃいませ」
 落ち着いたトーンの声に招かれ入店して来たのは、杖をついた腰の曲がった老人だった。白髪を七三分けにし、シャツの上にジャケットを羽織った老人はダンディな雰囲気だが、しかし、どこか哀愁が漂っていた。
店内を見渡し、どの席に着くか思案している様子の老人は、ゆっくりとした足取りで僕の方へと歩み寄ると「こちら、よろしいですか?」と丁寧に断りを入れ僕の隣のテーブル席に着いた。
 座った拍子に背もたれに引っ掛けた杖が床に倒れたが、敷き詰められた絨毯はその音を静かに吸収した。僕は咄嗟に杖を拾い慎重に背もたれへ引っ掛けると、老人は「すまないね、ありがとう」と笑みを浮かべた。
「どういたしまして」
 我ながら最近では見せることのない笑顔が出た気がした。
「旅行ですか?」と老人が尋ねる。僕たちが会話を始めるのは、とても自然な流れだった。

 
 私の生家は駅から少し離れた場所にあるが、小さなこの街では駅周辺にあらゆるものが集中していたため、幼い頃からこの辺りはよく訪れていたものだ。
 昔からこの地域に暮らす者たちにとって、幸之神神社は心の拠り所だ。私が故郷に帰り最初に訪れる場所はそこの他に無かった。
 長時間の電車移動は、思いのほか私の体力を消耗させていたようだ。ホテルで暫しの休息をとり、必要最低限の荷物だけをショルダーバッグに詰め込んだ。
 薄暗くなった参道には、仄かにあかりを灯す竹灯籠が並ぶ。この時期には紅葉をライトアップする催しが行われているそうだ。幻想的な雰囲気に感動しながらもこみ上げる疲労感は大きい。
 若い頃にはどうもなかった砂利の敷き詰められた参道に一苦労し、やっとのことで辿り着いた本殿前には石階段。強く手すりを握り、一段ずつ体を引き上げ必死になって上る姿は、さながら登山のようである。
 本殿の前に立ち震える足に力を入れ直すと、痛む腰をゆっくりと伸ばし姿勢を整えてから深々と頭を下げた。
 しかし、今の私には何も願うことなどない。何よりこの自責の念を少しでも軽減したい思いで一杯である。
 千五百年以上の歴史を誇る幸之神神社は、どれだけ年月が経とうとも変わらぬ景色である。私が生きてきたのは僅か数十年。ここへ来れば、こんな私でさえも優しく包み込んでくれそうな気がした。
 五感で捉えた全てのものが私の心を落ち着かせ、そして躊躇いは消え失せた。

『喫茶 一期一会』

 ホテルと同じ名の喫茶店は、その名前からレトロ感が漂うが、洒落た雰囲気はいわゆるカフェというやつである。もし、誰かと良い出会いがあれば素晴らしいと一瞬脳裏をよぎったが「そんなこと、あるわけないな」と呟いて一人笑った。
 ジャズの流れる店内には食後の珈琲を楽しむ者だけではなく、新聞を読んだりパソコン作業をする者など、その目的は様々である。席は疎らに空いているが、私みたいな一人寂しい年寄りが隣の席に座ることが憚られた。
店内を見渡し、どこに座るか思案していると店の一番奥に二十代と思しき一人の男性が座っているのが見えた。
 私はその姿に一つ二つ心臓が大きく打つ感覚を覚えた。その実直そうな男性は、若い頃の彼にそっくりだったのである。

 そう、弟の和幸に-

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