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『青年と老人 一期一会』ウダ・タマキ

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 旅はひと時の間、現実を置き去りにして心地良い時間を与えてくれる。
 はじめての一人旅。行き先はどこでも良かった。のんびりと肩の力を抜いてリラックスしたい。だから、喧騒感のある大きな街は嫌だ。だからと言って田舎すぎるのも少し違う。
 駅近くのホテルからは徒歩で観光地を巡ることができ、周辺にはちょっとした商店街や繁華街があって、夜には美味しいお酒や肴が味わえる。これらを満たす地方都市が理想だ。
 そんな理想を叶えてくれるであろう期待を込めて選んだのがA市である。
 昭和レトロな駅舎を出ると、ロータリーの向こう側にある『A市民文化会館』と壁面に記された大きな建物が視界に飛び込む。その建物の隣には『栄町商店街』と看板が掲げられたアーケードの商店街。初めて訪れた場所だが、どこか懐かしさを感じさせる駅前の雰囲気だ。
 ホームページで調べたホテルはその商店街を抜けた所にある。駅と市民文化会館、そして栄町商店街の三つの位置関係は理解し易く、地図を一瞥すれば迷わず辿り着ける自信があった。
 駅前一帯がこの街唯一の繁華街のようで数軒の居酒屋が点在するが、さすがに昼間はシャッターが下りている。
 三百メートルほどの商店街には、土産物屋や昔ながらの商店が多く並ぶが名前に反して人通りは少ない。それもそのはず。よく考えれば今日は水曜日だ。

 僕の仕事は車いすや歩行器などを取り扱う福祉用具の営業だ。正確には『福祉用具専門相談員』として用具に関する相談を受けたりメンテナンスを行うのだが、毎月の売り上げにはノルマがあり、それが僕のストレスに占めるウェイトは大きいので僕は自分の職種は営業だと思っている。
「営業向いてないよね、きみ」って、上司の一言。目も合わせてくれやしない。自分でも押しが弱いのは知っている。営業に向いていないという自覚だってある。そんなストレスに加え、彼女にふられるというダブルパンチが僕の心に大きな亀裂を生じさせた。
 基本的には週末の土日が休みだ。あえて平日に有給休暇を取って、一泊二日の旅に出た。現実逃避というやつ。

 商店街を出ると強い日差しに目が眩んだ。目の前の歩行者信号は薄っすらと赤い色を灯している。信号を待ちながらホテルの位置を確認すると、ホームページで見たのと同じブラウンを基調とした外観が道路のすぐ向こう側に見えた。
 駅前から商店街を抜けて続く道は、やがて幸之神神社へと至る。石畳の道路には等間隔で石灯籠が並び、街の色彩は景観を壊さないよう原色が控えられている。全国チェーン展開するコンビニの看板でさえ通常とは異なる落ち着いた色使い。そんな街並みに調和した落ち着いた雰囲気が漂うホテルである。
 エントランスには木の看板が掲げられ、力強い行書体で『一期一会』とある。そう、これがホテルの名前だ。
この街にいくつかあるホテルから、その名前に惹かれた。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
「予約している磯川風太というんですが」
「ありがとうございます、磯川様。お調べ致しますので少々お待ち下さいませ」
 僕は背負っていたリュックを荷物置き台に下ろした。慣れない重い荷物に肩が凝る。大きな息を吸い込み一つ深呼吸をした。

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