メニュー

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ
               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

\ フォローしよう! /

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ

『大空』奥村由布子

  • 応募要項
  • 応募規定

 明夫の表情は明るかった。
「現役で入ったって、留年する奴もいる」
「あなた、あそこの学生さんなのね」
 真美が顔を輝かせた。
「それで駄目になるか、それとも糧にするのかは、本人が決めることではないでしょうか」
 明夫は、まるで自分に言い聞かせるように、ゆっくりと発音した。
「糧・・・。そうね。失敗かどうかなんて、その先の生き方が決めることね」
 飛悠はふたりと話しているうちに、心の中の霧が晴れてゆく思いがした。
 パスタのトングをむんずと掴み、器用に取り分ける。ついでにお替わりまで注文した。「あなたは?どうしてここに?」
 真美の少し高い声には、有耶無耶にさせてくれない響きがあった。
 明夫が口を開く。
「彼女が妊娠したんです」
 おめでとうございます。咄嗟に出そうになった言葉を、飛悠は呑み込んだ。何やら訳ありの様子だ。
「おめでとう」
 真美は明瞭に言った。
「有難うございます。でも俺、実感がわかなくて」
「そうなの?」
「父親というものを知らない自分が、父親になって、家族を作るなんて」
 真美は、すう、と息を吸い込んだ。
「親はなるんじゃなくて、なってゆくもの。家族は作るんじゃなくて、作ってゆくもの」
「なってゆくもの・・・作ってゆくもの・・・」
 もらった言葉を反芻しながら、明夫は想像している様子であった。
「俺なんかでも、大丈夫かな」
「『なんか』なんて、言わないで下さい」
 軽く怒ってみせた飛悠に、明夫が笑った。
「じゃあ」
 咳払いして、明夫が言い直す。
「俺でも大丈夫かな」
「もちろん!」
 飛悠と真美の声が重なった。
「何だか私たちこそ、家族みたいね」
「本当だ」
 照れ隠しなのか、明夫がワイングラスを高々と上げた。
「遅くなりましたが、今宵、ここで出逢えた『疑似家族』に、乾杯!」
 飛悠はコップを、真美はジョッキを上げた。
「乾杯!」
 そのとき。隣のテーブルからも、控えめに「乾杯!」が聞こえた。声の主は、フロントにいた割烹着の女性。いつの間にか、隣に座り、様子を見守っていたらしい。
「もし宜しかったら、デザートをサービスさせて下さい」
「もちろん!」
 今度は、三人の声が重なった。

 満腹になった三人は、揃って部屋に戻るとまたすぐ、廊下で落ち合った。今宵の記念に、荷物の中からプレゼントを贈り合うことにしたのだ。
「これ、ページが擦り切れているけれど」
 明夫が飛悠に手渡したのは一冊の本だった。題名は『フィールド・オブ・ドリームス』。
「大切に読みます」
 飛悠が頭を下げる。それは高校球児そのものに見えた。人生における飛悠の試合は、正にいま、始まろうとしている。
「これ、予備分をあげる。お父さんに、はい」
 真美が明夫に持たせたのは、両腕にすっぽりとおさまるサイズの人形だった。
「これって、まさか」
 明夫は、おっかなびっくりの様子で、人形を抱きかかえた。
「そう、ベビー人形よ。私は保健師の資格を持っていてね、あちこちの両親学級で教えているの」
「もしかして、明日も?」
「ええ。すぐ近くの公民館で。あら、貴方も彼女さんと参加予定?」
「ええ、まあ」

5/7
前のページ / 次のページ

11月期優秀作品一覧
HOME

■主催 ショートショート実行委員会
■協賛 ソラーレ ホテルズ アンド リゾーツ株式会社
■企画・運営 株式会社パシフィックボイス
■問合先 メールアドレス info@bookshorts.jp
※お電話でのお問い合わせは受け付けておりません。


1 2 3 4 5 6 7
Copyright © Pacific Voice Inc. All Rights Reserved.
  • お問い合わせ
  • プライバシーポリシー