「年上って、私のこと言ってる? 多分、あなたとそう変わらないんだけど」
「いくつですか?」
「訊くんじゃないわよ」
麻衣は珈琲を口にし、腕時計を確認した。
「あなたは、自分が書いた脚本をプロの人たちに見てほしいのよね?」
「はい。自信だけはあります。お金はないですけどね」
聡は笑ったが、麻衣は笑えなかった。
「例えばさ。何かのご縁があって、あなたの原稿を見てもらったとしましょうよ」
「それは嬉しいですね」
「その後、あなたに連絡したい場合はどうするの?」
「手紙を書いていただければ助かります」
「文通じゃないんだから」
「相手が困ってしまうことは僕も承知しています。切手の値段が上がってしまいましたからね」
「そこが問題じゃないのよ」
「……といいますと?」
聡は首を傾けた。
「すぐに連絡したい場合を言ってるのよ。あなたを起用したいって場合はどうすればいいの。電話のほうが早いでしょ」
「でしたら、仙台の実家に電話をくれれば、母が自分宛に手紙を書いてくれますのでご安心ください」
麻衣は一瞬、考える。
「いや、違うっしょ」
「えっ」
「それじゃあ、もっと遠回りになっちゃうじゃん」
聡は再び首を傾げた。
「わざわざ仙台に電話して東京まで手紙を送ってもらうのは二度手間でしょ? だったら直接、東京に手紙を送ってもらったほうが早いじゃない」
聡は腕を組んで考える。
「もう一度、言ってくれますか?」
「だあっ、ちくしょう! もういいわよっ、誰もあんたになんか連絡しないわよ!」
「いや、でも母は達筆なんですよ」
「字がうまいかどうかなんて、どうだっていいのよ。そもそも連絡する手段が限られてるんだから仕事に繋がらないでしょって言ってるの!」
「脚本には自信があるんです」
「自信があったって携帯がなかったら意味ないじゃない!」
「うまいですね」
「もう好きにしなさいっ」
麻衣は足を組んで珈琲をぐいっと飲み干した。聡は肩を落として息を吐く。
「一回、冷静に考えましょう」麻衣は深呼吸した。「あと何日かここに滞在すれば解決する話だと思うの。もし撮影所の関係者に脚本を渡して気に入ってもらえれば、あなたの夢が叶うかもしれないのよ」
「それが無理なんですよ」
「なんで?」
「もうお金がないんです」聡は財布を開けた。「京都で使い果たしました」
「し……知らないわよ、そんなの!」
「仕事ないって、言いましたよね?」
「なんで、少し怒ってるのよ。あんたにお金なんか貸さないからね」
「僕、絶対に人からお金だけは借りないぞ、って決めてるんですよ」
「プライドだけは一人前ね」
「父親似です」