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『とあるホテルのラウンジで』長尾優作

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「私のこと馴れ馴れしく名前で呼ばないでくれる?」
「え、名前違いました?」
「いや『麻衣』で合ってるんだけどさ。私、あなたのこと知らないから」
「僕は『脚本家志望』の『橋田聡』と申します。夢はプロの脚本家になることです」
「うん、訊いてないし勝手にしゃべらないで。邪魔しないでくれるかな」
「もちろんです。ささっ、お仕事続けてください」
 麻衣は鼻息を鳴らし、ノートパソコンに目を向けた。聡はテーブルにある『飲み物』のメニューを眺めている。
「すいません。あのう、すいませーん!」
 麻衣はイライラしながら目の前の男を一瞥すると、彼は手をまっすぐ上げてスタッフを待っていた。男性スタッフが小走りでやってくる。
「ご注文でしょうか?」
「チョコレートってありますか?」
「あ、はい。チョコレートケーキでしたら、こちらに……」
「いや、僕チョコレートだけが欲しいんですよ。チョコレートのかたまり」
スタッフは目をパチクリさせる。麻衣は手を止め、眉間に皺を寄せていく。
「しょ、少々お待ちください……」
スタッフは足早に奥へ戻っていった。
「あるわけないでしょ、そんなもの」
「甘いものを食べて脳に栄養を与えると執筆がはかどるんですよ」
「ケーキでもいいじゃない」
「いや、ぎゅうっと固まってたほうが糖分が強そうじゃないですか」
 麻衣は理解できずにいると、先程のスタッフがやってきた。
「お客様。『チョコレートのかたまり』というのは、ご用意できなくて……」
「じゃ、砂糖のかたまりってあります?」
 麻衣は額に手を当てた。聡はスタッフの返事を待っている。
「そこの角砂糖でも食べれば?」麻衣に言われ、聡はテーブルのガラス瓶に入っている角砂糖を見つけた。「これは無料ですか?」
 スタッフは困った様子で頷き、ゆっくりと奥へ引き返していった。
 聡は角砂糖を一粒口に放り込み「あまーい」と唸って体を揺すった。
「あなたって、おかしな人ね」
「……へ? お菓子な人? いえ、僕は別にお菓子が好きなわけじゃなくて、糖分を摂ってエンドルフィンを……」
「そういう意味じゃないわよ」
「食べます?」
「いらないわよ。このあとお弁当食べるからお腹空かせてるの」
「いいですね、駅弁ですか? 京都といったら、やっぱり……八ツ橋ですね」
 聡は角砂糖をバリバリと噛み砕きながら、粉がついた指をチュパチュパ舐めて窓を見た。「雨、やみませんね」
 お昼から小雨が降り始め、十一月の京都は肌寒かった。
「今日は晴れてほしかったんだけど」麻衣が呟いた。
「お仕事で来たんですか? ここの温泉が腰痛にいいって聞いたんですけど」
「ええ、仕事の都合でここに連泊したの。今日チェックアウトして一時半に来るバスを待ってるんだけど、渋滞で到着が遅れるみたいだから、このラウンジで待たせてもらってるの。素敵よね、このラウンジ」
「うーん……八ツ橋かあ」
「聞いてた、私の話?」
 彼女は文句を言いつつもキーボードを器用に操り、仕事をこなしていく。
「……はあ」聡は息を吐き、茶封筒を抱えて肩を落とす。
「溜息つくと幸せが逃げるわよ」
 聡は視線をテーブルに向けた。麻衣の飲んでいた珈琲から薄っすらと湯気が立ち上っている。
「さっきは、すいませんでした」

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