「そっか、でもいいんじゃない、っていうか泊まってみて良さそうだったら教えて。私も何かあったとき泊まるから」
「ないでしょ、はは」
「ないけど」
そう言いながら、梨沙とはははと笑いながら、私は、明日から2泊でモダンシングルを予約した。
「でもクリスマスによく空いてたね、そこ大丈夫?」
「うん、ほら、シングルだし」
「あ! だよね、クリスマスに一人でそういうとこ泊まるとか仕事以外じゃありえないもんね」
さらっとひどいことを言う、と思いながら、そうねそうね、と言うと、梨沙は、明日の婚活に完全体で臨みたいから準備する、と言って立ちあがった。こっちが私の部屋で、私は今日はこっちのママの部屋で寝るから何かあったら呼んでねと案内してくれた。時計を見ると午前0時を過ぎていた。
「梨沙ちゃん、ありがとうね今日。私ももう寝るよ。シャワーは家出る前に浴びてきたから大丈夫」
「うん、オッケー。洗面所、メイク落としとかあるから自由に使ってね」
「じゃあ今パッとメイク落とししちゃうわ。あ、この口くちゅくちゅするやつ使っていい?」
「いいよ大丈夫」
顔を洗っている間に梨沙はコロンの様子を見に行く。
「あ、あと明日朝婚活の服チェックして、アリかナシか」
万が一ナシだとしても私はそれはナシだね! とは言えないだろうと思う。
おやすみーと言い合ってお互いの部屋のドアを開けて閉めた。梨沙の腕の中でコロンが目をとろんとさせている。
梨沙の部屋は、ピンクのラグが敷いてあって、ベッドの枠が真っ白でカーテンも白と薄いピンクだった。ハタチの時からきっと変えていないんだろうと思った。
クローゼットの中の服や下着が気になって開けたい欲求に駆られるけれど、ぐっとこらえて、そっとベッドに体を入れた。冷たく、持ち主でない私をどこか拒否しているような気がしたまま丸くなって目を閉じた。
Reverb TOKYOの入り口は、木の枠にブルーのドアになっていてガラスがはめ込まれていた。手の入れられたニセモノの木造空間と思っていたのに、都会の少し行けば大通りの場所にこんなあたたかみのある場所があるなんて、と少したじろいだ。
もっと気持ちに余裕のある都会を楽しむべき人が来るところじゃないのか、と思いながらドアを開けた。
いらっしゃいませ、とすぐにカウンターから視線を投げてくれた小柄な女性がどうぞどうぞと言ってくれる。言われるがまま中に入ると、ネットで見たのと同じ、おしゃれなカフェ空間が広がっていた。大きなクリスマスツリーが飾られているくらいで、ごちゃごちゃしたクリスマスの装飾がなくてなんだか安心する。
あまり聞いたことのない、キラキラでもなくドスドスでもなくチャカチャカでもない、かといって一時期流行ったカフェBGMでもない曲が流れていて落ち着く。
お食事ですか、と聞いてくれるカウンターの女性に、あの、と口ごもりながらホテルに、と言うと、2階ですね、と中の螺旋階段を教えてくれた。
螺旋階段を上ると2階はフロントになっていて、カフェの雰囲気が続いているような木造みたいな空間だった。ホテルのスタッフさんは一般的なホテルと同じような対応で、ルームキーを預かって部屋に向かった。
モダンシングルという部屋は、白いベッドに木の家具と黒い家具が置かれていて、ザ・シンプルな内装だった。無駄なものが何もないのに、壁に作られた黒い枠だけの本棚には、海外の綺麗な装丁の本が飾られている。電気ポットもコップも北欧風でセンスがいい。きっとイナカシングルのほうはかわいい湯飲みが置いてあるのかもしれない。