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『ReverbTOKYO』柿沼雅美

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 いや、まさか実の親に家を追い出されるなんて思ってもみなかったと思いながら、キャリーケースをガラガラひいて歩く。どうしよう、と年に1回集まるか集まらないかの学生時代の友人のグループトークに書くと、梨沙からすぐに返事が来た。
 今日くらいならうち来ても大丈夫だよーおいでよー、と言うので、駅まで迎えに来てもらうことにした。
 新宿駅のまわりは相変わらず人が多くてガラガラをひいているだけで迷惑そうな顔をする人もいるけれど、終電前の時間なのにカップルが多いのは明後日がクリスマスだからだろうか。ブルーやピンクやイエローの光が、普段は見向きもされない木にネックレスをかけたようにきらめく。
 西新宿に移動すると、梨沙がスマホを片手におーいと手を振っている。左手ではーいと返事をしながら速足で近づく。
 「どうしたの? 何? 彼氏にでも振られた?」
 「え、嫌味ですか?」
 私が答えると、やっぱりまだだよねぇ、と笑う。
 「私も婚活全然うまくいかなくて。また明日パーティー行くけどさ」
 「日曜にいつも行ってる感じ?」
 そうだね、と言いながら梨沙はもう家だよと案内してくれる。
 梨沙は30歳になってすぐに婚活を始めて5年が経とうとしている。婚活で出会った人と付き合ったこともあったが結婚には至らなかった。性格も悪くないし見た目も普通なのになんでなんだろう、と年末になると思う。
 駅近と言っていただけあって、都内の駅前によくあるタワーマンションだった。すごいとこだね、と言うと、そんなことないよーと梨沙が嬉しそうに笑った。持ち物や見た目を褒められるのが好きなのはななんとなく分かっている。私を迎えに出てきただけという格好でも爪には小さいストーンが付いているし、クラッチのように持っている財布はシャネルだ。
 「え、梨沙ちゃんて一人暮らしだっけ?」
 靴を脱ぎながら見る床は白く、大理石のようだ。
 「ううん、うちね、パパが海外出張が多くて、今年は年末年始に日本に戻るか分からないからママが今そっちに行ってるんだよね、1週間くらいだけど。今日は私しかいないし気遣わないで大丈夫だよ。明日は婚活あるけど」
 そっか、と返事をしながら部屋に入ると、壁が押し込んで開くタイプの収納が続いていて、リビングにアイランドキッチンが見えて、L字のソファに50インチくらいのテレビが向かい合っていた。真ん中にはダイニングテーブルがあり、UV塗装がされているようにテラテラと光っていた。
 「今日七菜香はママの部屋でいい? ごはん食べた? ウーバーでも頼もうか?」
 「あ、いいいい、大丈夫」
 「そっか、じゃあ紅茶くらいは入れるね」
 ソファに座りながらぐるっと部屋を見渡すと、花瓶や棚の中のワイングラスなどひとつひとつが明らかに高級なものだった。
 「梨沙ちゃんてすごいお金持ちだったんだね知らなかった」
 「そんなことないよぅー。全部親だし」
 紅茶をソファーのサイドテーブルに置いて梨沙が隣に座る。すぐに、アッ、と言って立ち、リビングを出て行った。
 戻って来た梨沙の腕の中には茶色いトイプードルが抱かれている。目をしばしばとさせて私を見て、壁を見て、テレビを見て、また私を見た。
 「かわいい! わんちゃんいたんだ」
 「うん、コロンって言うの」

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