「でもパパはパパで心配してくれてるんだよねそれ?」
「うん。毎日連絡はしろって言ってたし、進捗とか。でも、でもさぁ、実際私実家を出る気ないんだよね。だって、実家がいいのに、わざわざ埼玉から都内出て来て高い家賃と光熱費払って、それでどうするの? って思っちゃう」
たしかにーと言いながら梨沙が少し考える。
「一人暮らししたら彼氏と家でいちゃいちゃできるからそれもいいのでは?」
「だから彼氏がいないんだって」
私が言うと、あぁそうだそうだ、と笑う。
「でもさすがにこの年になるとさ、彼氏のほうが一人暮らしとかが当たり前じゃん? だからいちゃつくのはそっちでいいわけだし、確かにわざわざ一人暮らしするメリットってないよね、この年になってさ」
「もうー年年言うのやめてよー。それに仕事から帰ってきて一人とか慣れてないからすっごい寂しくなりそう」
でもそうだ、男だったら同い年でもずっと実家って言われたらどうだろう、私だったら、え、と思ってしまう。ということは女でも、え、と思われるにちがいない、のかな、どうだろう、とぐるぐる考える。
「じゃあ、じゃあさ、シェアハウスは? それなら寂しくないし安くない? 知らないけど」
知らないんじゃん、と言いながら、バッグからスマホを取り出して、シェアハウス、と検索をかける。見てみる、と言うと、私も探すよー、となぜか梨沙が楽しそうに自分のスマホを手に取った。
見てみるとシェアハウスもどことなく20代前半の子たちが住むようなところが多く、オシャレで大人でも馴染みそうなところは普通にワンルームを借りるのと大して金額に差がなかった。
どちらにしてもこんないい家に何日も転がり込むわけにはいかないし、婚活の話を逐一聞くのもなにか疲れてしまう気がする。どうしようどうしようと思いながら、検索は賃貸ではなくホテルに変わっていた。
値段を設定して3,4日の滞在とすると、チェーンのホテルか女性専用カプセル、大浴場付きビジネスホテルなどが並ぶ。
その中でひとつ、際立って目に入ったのが、Reverb TOKYOだった。
普通のマンションのような建物の1階部分がエントランスなのかカフェなのかになっている。鉄筋のはずだが、わざと古めかしさというか長屋の一軒家のような木造感があってちぐはぐな感じが面白い。
1階は大きな飲食ができるスペースのようで、都内のカフェとなんら遜色ない。黒い革張りのソファや緑の布張りのベンチソファ、木目カウンターの席の向いの壁沿いにはお酒の瓶が並んでいる。カフェ好きの私なら半日は余裕でいられそうだった。
フロントは2階で3階以上が客室になっている。モダンシングルという部屋は、ベッドとテーブルに椅子、窓があってテレビは壁かけ、一般的なビジネスホテルと似ているが、黒と木目と白で統一されているところが清潔感がある。中には、イナカシングルという部屋もあって、畳が敷かれている部屋で布団が用意されているようだった。イナカトリプルは家族向けなのかこたつがあるようだった。
ここにしよう、とすぐに決めた。
「えーおしゃれじゃんいいじゃん。でもホテルでしょ? 住めないじゃん、数日泊まったあとどうするの、実家帰れる?」
「んー、ほとぼり冷めたら帰るよ。実家出る気ないもん」