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『捨てられた子猫がつなぐ』山内弘

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『秋恵とあまりうまくいっていないんだけど、離婚したらショックですか? 』というメールを以前に送っていた。バツイチは今では珍しくないが、母も離婚経験者なので隆としては気になっていた。しかし母からそれ以降、返信がない。
こちらに任せるという意味ならよいと思っていた。しかし何か理由があって、返信できないのではないかという危惧もあった。母も仕事をしている。忙しいだけならよいが、体調を崩していないか気になった。
 幸いなことに、久々に会った母は元気そうだった。
「あら。猫ちゃんね。可愛いじゃない」
 人なつこいマリは母へ近付いて行った。足の周囲にまつわりついている。母はマリの頭をなでていたが、少しすると抱き上げて「飼い主はこっちよ」と隆のほうへ戻してきた。
 ふと少年時代から青年時代まで飼っていた猫、グーのことを思い出した。高校時代の友人が、引っ越し先がペット禁止で飼えないとのことで引き取った。最初は子猫だった。黒虎の体で、黒の部分を茶色に変えればマリそっくりになったような気がする。
 隆が勝手に家へ連れて来て、最初は両親に怒られた。ところが家に大人しくいるのを見てふたりとも愛着を感じたのか、しだいに可愛がるようになった。結果的に隆よりも家にいることの多い母が世話を担当することになる。母もけっして猫が嫌いなわけではなかった。
 グーは八年間いたあと病気で死んでしまった。大学を卒業して一年たった頃で、それを機に隆はひとり暮らしをはじめた。父が家を出て行ったと聞いたのは、それから一年後である。グーが死んだのと関係があるのかどうかは分からないが、結果的に母はひとり暮らしをすることになった。
 そんなことを思い出しながらソファーに座っていると、秋恵がコーヒーを淹れて運んで来た。横長のソファーに隆と秋恵が並んで座り、斜め前にある独り掛けの安楽椅子に母が座っている。マリの視線がコーヒーへ向いている。秋恵が立ち上がり、ミルクを容器に入れてマリの前に置いた。マリは口をつけ、勢いよく飲み干した。そして横になった。
 それにしても猫は体がやわらかい。太った海老のようになって横腹を上に出している。思わず隆が腹のあたりを触ると毛の手触りがよく暖かかい。ゴロゴロと、初日に聞いたのと似た声がした。二週間もたっていないのに多少大きくなったように感じられる。秋恵もマリに触れてきた。
 少しして、秋恵がトイレに立った。
「どうやら夫婦仲は円満なようね。ホッとしたわ」
 母は隆に顔を近付けて微笑んだ。
「ああ。変なメールを送って心配させたね」
 秋恵が戻ってくると、母は立ち上がった。
「そろそろ行かなくちゃ。そういえば秋は連休が多いわね。こんな記事を見たの。ふたりとも忙しそうだけど、たまには旅行でも行ってみたら」
 母は、中央のテーブルの上へ情報誌を置いた。
「そうなんですか。お昼飯でも召し上がってくださいよ」
「ありがとう。でも予定があるの」
 母は、秋恵へ笑顔を向けて廊下へ出た。

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