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『捨てられた子猫がつなぐ』山内弘

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 秋恵の作った料理は一見、人間の食べるシチューと変わらないように見えた。だが彼女に言わせると、塩分を抑えたり工夫しているようだ。
 隆は職場の帰りがけにカゴ状のトイレを購入してダイニングルームの隅に置いた。食事の後にそこへ入れると、マリはちゃんとそこで用を足すようになった。

 土曜日の昼のことである。隆が玄関の外へ出ると、マリがついてきた。玄関の外を通った中年の女性が「あら。可愛い〜」と言って寄って来た。何度か話したことのあるお隣さんである。
「飼うことにしたんですか。いいわねえ」
 頭や顎の下をなでている。猫が好きな人が分かるのか、マリは気持ちよさそうにしている。
「でもね。あなた。子猫のうちは外へ出すと危険かもれないわよ」と女性は眉間に皺を寄せた。
「どうしてですか」と隆は聞いた。
「最近はこの辺にもハクビシンやアライグマが増えてきているんです。人からはぐれてしまうと、襲われて食べられてしまうかもしれませんよ」
「そうなんですか。気をつけなければなりませんね」
「まあ大人になったら大丈夫でしょうけどね」
「怖いですね。絶対に外へは出さないようにします」
 背後から声が聞こえた。秋恵が出てきている。
「でも家の中だけだと退屈するでしょうから、よかったらうちへ遊びに連れて来てくださいな」
 お隣さんの顔は、愛想のよい笑顔へ戻っていた。隆に抱かれたマリを名残惜しそうに見ながら、自分の家へ入って行った。

 隆は秋恵と相談した。隆と秋恵が出入りするときは、マリも出て来そうになる。隆が出て行くときは、秋恵が抱いてくれることになった。秋恵が出て行くときは隆が抱く。そのため夫婦のお互いが単独で外出するときは、もうひとりが見送る習慣がついた。そういえばふたりが同居して最初の一週間は、こうしていたかもしれない。それを思い出した。
 夫婦のどちらかが家へ戻ったとき、中にもう片方がいるとブザーを鳴らして伝えるようにした。そして家の中にいるほうがマリを抱く。問題はふたりとも不在のときである。しかしそれは杞憂に終わった。人好きなマリは、人が家へ戻ったときには出て行こうとしない。
 就寝時は、夫婦の間にマリが寝て、少しずつ移動したりもする。湯たんぽ代わりになった。

マリが来てから二回目の日曜日になった。昼前に突然、母がやってきた。
「あら。よかった。ふたりともいてくれて。外出していたら空振りだなと思いながら、近くへ行く用事があってね」
「連絡をくれればよかったのに。でも元気そうでよかったよ」
「なんで。具合悪いなんて言ってないわよ」
「そうだけど。ただ……」
 隆は少し気になっていた。

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