隆と秋恵は母を玄関まで見送った。マリは隆が抱いていたが、母が帰るのをじっと見ていた。
ソファーへ戻った隆は「マリがいるから当分旅行は難しいよな」と言って、雑誌を手にした。
秋恵も横に座った。
雑誌には膨大なホテルの情報が掲載されていた。その中の特集に、ペットと泊まれる宿というのがあった。
「ペットがオッケーのホテルもあるんだね。知らなかった」
「そういえばけっこう多かったと思うわよ。子供の頃、犬を飼っていてね、親と一緒に行った記憶がある」
秋恵は口調も表情も生き生きとしている。
「犬を飼っていたんだ。知らなかった」
「そういえば話してなかったね。私たち、まだまだお互いのこと、知らない部分が多いかもしれないね」
「たしかにそうだ。知り合って一年半か。これからだね」
「へえっ。このホテル、快適そうね。それにここならマリを連れて行けるかもしれないわよ」
「そうなんだ。俺にも見せてくれる」
隆も秋恵の見ているページを覗き込んだ。
秋恵が顔を起こした。
「それにしてもお義母さん、ずいぶんと用意がいいわね。ホテル情報というだけではなくて、ペットと泊まれるなんて。猫を飼うことになったのは伝えていたの」
秋恵は隆を見つめてくる。
「いや。言ってないけど……」
隆も上半身を起こした。
たしかに妙にタイミングがいい。
隆は頭を巡らせた。母が隆と同じように、明け方に目を覚ます傾向があることを。そしてこの家へ無理すれば歩ける距離に住んでいることを。