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『オレンジジュースの悲劇』安藤愛美

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「……まぁね。めんどくさいよな大人って。俺だって朝オレンジジュース拭くのめんどくさかったもん」
 くすくすと笑いながら茶化したように今朝の悲劇を責め立てる。
「いやだからその……その節は本当に」
 たじたじとふみこが返すと、航太は声を大にして笑いながら切り返した。
「うそうそ。本気で思ってたらわざわざしないでしょ。別に俺がやんなくても旅館の人がやったろうしね」
 ふみこに笑いかけたその顔があまりにも優しくて、ふみこは少し泣きそうになった。
「貴方様はなにか……私とは比べ物にならない良き心を持ってる気がします」
「何それ……俺出家とかしてないよ?」
 笑いながら航太は川の方に目をやると、しっかりとした口調で話し始める。
「……でも、なんかそういうのが大事だと俺は思うんだよね」
「……そういうの?」
 ふみこは体勢を整えて航太を見る。相変わらず川の音とライトアップを楽しむ人たちの話し声が交じりあう中で、ふみこと航太の所だけ、まるで別の時間が流れているみたいに、静かな空気が流れていた。
「別にやらなくてもね、ってことをできる心の強さみたいなもの」
 少し間を置くと、もう一度航太は口を開いた。
「俺は、そういうのを大事にして生きてたいなって思う。蓋ばっかしててもしゃーないし」

 現実にフタをしまくっているふみこは自然と口をつぐんだ。それ以上、何も言えなかった。笑って冗談で返せる気力も、どうせフタしまくってますよ、なんて拗ねてみせることもできなくて、ただ心に突き刺さった航太の言葉を静かに消化するしかなかった。
「寒くなってきたし、そろそろ戻りましょうか」
 航太が切り出すと、ふみこは淋しげな顔で頷いた。
「そうですね」

 程なくして旅館に着くと、おかえりなさいませ、という温かい声が旅館内に響いた。
「あ、僕水買ってから戻るので」
「あ、はい。じゃあ……」
「……あ、名前。そういえば聞いてなかった」
「あぁ、たしかに。早坂ふみこです。貴方は?」
「川村航太って言います。色々話せて楽しかったです」
「私もです」
「明日は起こさないで下さいよ。悲劇」
「起こしませんよ……」
 もぅ、と言いたげな顔で少し笑いながらふみこは航太を見た。
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 階段を上がり2階まで行くと、左に行ってすぐの部屋の前で立ち止まり、持っていた鍵を差し込んだ。電気をつけると、そのままベッドに仰向けで倒れ込む。
 天井を見つめながらふみこは航太との会話を思い返す。すごく特別な会話をしたわけではなかったのに、ふみこの胸には航太の言葉が突き刺さっていた。それは多分、そうあるべき、という心の奥のかすかな声に蓋をして、なんとなく今日まで障害物を避けながらやり過ごしてきたことが、決して正解とは言えないとわかっていたからかもしれなかった。

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