「あの……っ、今朝の方……ですよね?なんかあの……色々すみませんでしたっ」
ふみこは若干焦りながら話しかけた。
「あぁ、オレンジジュースの悲劇ね」
くすくすと笑いながら青年は面白げに答える。
「もぅ……馬鹿にしないで下さいよ」
「あ、いや…馬鹿にしたつもりは」
そう言って笑いながら話す航太の横顔が、ライトアップのせいか、なんとなく温かい印象を与えていた。
「綺麗ですねライトアップ。こんなにすごいと思わなかった」
「ね。俺もさっき同じこと思いました」
「私全然知らなくて。さっき夕食の時に仲居さんに聞いて来てみたんですよね」
「そうなんですか?じゃあラッキーでしたね」
「ですね。……一人で来たんですか?」
「いや、会社の同僚と来たんですけど……寝落ちしちゃってて。絶対これ見るって張り切ってたのに馬鹿だなぁあいつ」
「……疲れちゃったんですかね?」
「そうみたいね。あんまりぐっすりなもんだから、仕方なしに一人で来てやりました」
はは、とふみこは笑いながら橋の手摺に腕を回した。
「一人旅ですか?」
「あ、はい。二泊三日で……たまには一人で癒されようかなって」
「へーいいですね。俺もお姉さんみたいな贅沢な旅してみたいな」
お姉さん、という響きがなんだか妙にしっくりこなくて、ふみこはおかしくなった。
「お姉さん……って私まだ26ですけどね」
「26歳?本当に?」
急に驚いた顔と口調でこちらをぐるりと見ると、航太は続けた。
「いや、どうみても26歳とは思えない貫禄漂わせてますよね?俺、正直年上かなと……」
航太の正直すぎる感想に、慣れてます、といった口調でふみこは答える。
「……なんていうか、遠慮なさすぎません?まぁ、よく言われるけど」
「……よく言われるんだ」
失礼な言い方をしたと反省したのか、少し申し訳なさそうに、航太は弁解した。
「……いや、違くて。老けてるとかそういう意味で言ったんじゃなくて、空気がなんか……落ち着きすぎてるって言ったらアレだけど。なんか色んなものを諦めてる……というか。そんな感じがして」
――ふみこはどきりとした。まるで心の中を透視されたような気分だ。
「……すみません。初対面にこんなこと言われて、気悪くしましたよね。本当にすみません」
ふみこは別に怒っていない、といった感じで静かに口を開く。
「……わかっちゃうんですね。そんなところまで。言葉にしてないのに簡単に見抜かれちゃうんだなぁ」
航太は淋しげなふみこの横顔を見つめた。
「……人が嫌いですか?」
いちいち的を得た質問に、ふみこは苦笑いした。
「エスパー……?」
「いや……なんとなく」
「……嫌い……なわけではないんですけど。めんどくさいじゃないですか人付き合いって。自分ではない誰かのために気を使ったり、空気読んだり。そういうことにいちいち左右されなきゃいけないのは疲れるよなって」
航太もぐるりと橋の手摺に両腕をまわすと、共感できる、といった顔で答える。