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『オレンジジュースの悲劇』安藤愛美

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 昼間だというのにテレビもつけず、まして観光にも行かず、ごろごろとふかふかのベッドに横になるのも決して悪くないなと思いながら、ふみこはのんびりとケトルにミネラルウォーターを注ぐ。真っ昼間から温泉を堪能したふみこは部屋に戻ると、その心地よい疲れをゆっくりと浸透させるように横になって目を閉じた。そうしてそのまま眠りにつき、やわらかな夕日がほどよく眩しくふみこの顔を照りつける頃、ふみこは目を覚ました。
 あと一時間もすれば夕食が運ばれる。その前に珈琲を一杯飲んでおきたいと、浸透した心地のよい疲れを引きずって、のそのそと起き上がったところだった。

 ふみこは珈琲が好きだ。職場でも、たまに年の近い女の子と二人でする珈琲タイムが、ふみこの擦れた心をだいぶ癒していた。
 webの仕事をしているふみこは夜も遅く、仕事を家に持ち帰ることも多かった。会社が残業を推奨しなくなってからはそのしわ寄せが酷く、休みの日も家で仕事をしなければならない現状に、心も体も悲鳴を上げていた。
 その悲鳴はおそらく上司にも言えることで、終わらない仕事に苛々を募らせる上司の空気が、さらに職場内の空気を悪くしていた。
 正直、ふみこは疲れていた。もう色んなことから逃げたかった。職場ではカリカリすることが増え、ストレスの矛先を上司に向けて、口論になることも多くなっていた。そんな私の様子を見かねた部長が、「気分転換に旅行でも行ってこい」と唐突に有休をくれたのがきっかけで、私はこの二泊三日の贅沢な一人旅を計画することになった。

 
 春がそこまで迫っているというのに、外はまだ随分と肌寒い。浴衣の上から腕をさすりながら、夜の渓流沿いの道を足早に歩く。
 まったくジャンのやつ、これを楽しみに来たっていうのに、いかにも気持ち良さそうに爆睡するとはなんて罪な奴なのだろう。
「明日になって俺を責め立てるなよ……」
 ぼそりと独り言をつぶやくと、航太はため息をもらした。
 目的の橋に着くと、既にたくさんの人が集まっていた。航太はゆっくりと川の方を見やる。
「わ、すげ……」

 この温泉郷では川のライトアップがひそかに有名で、それを目的に訪れる外国人も多い。毎年子供たちが竹や和紙を使って手作りで照明を作り、それを周りの木に飾りつけたり、川を渡すように上から吊るしたりして、川一帯の大がかりなライトアップが行われる。
 流れる川を照らす温かいオレンジの灯りは、人々に美しい光景と感動を与えていた。

「あいつ、本当馬鹿……」
 今頃夢の中にいるであろう連れに向けて、またもため息混じりに航太はぼそりと呟いた。
 と、少し離れた横にすっと入ってきた女性が、航太と同じように感嘆の声をもらす。
「わ……すご……」
 ふいに目をやると、なんとなく見覚えのある顔に航太は記憶を辿らせる。そして行き着く。
 あ、今朝の……と、言おうと口を開けると同時に、向こうが先に口を開いた。

 
 なんてタイミングだろうか……
 こんなところでまさか会うとは思っていなかった人物に会ってしまったことに驚きを隠せなかったが、とりあえずふみこは今朝の出来事を丁重に謝ろうと、慌てて口を開く。

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