何かが引っかかって、私は寝そべっていた体を起こして、首をひねった。そして、ハッと
なった。もしかして、と、今年の年賀状を探して、香奈ちゃんの住所を確認する。
「やっぱりそうだ」
隣の隣の県に引っ越していった香奈ちゃん。それは、例のホテルのある県だ。大学も県内に家から通っていることが年賀状に書いてあった。
スマホの地図で見るに、ホテルの場所と香奈ちゃんの家は近くはないけれど、同じ県内だ。県外から行く私と比べれば断然近い。
毎年毎年、「いつか会おうね」と年賀状に書きながら、実行することはないかも、とも思っていた。スマホでもパソコンでも、簡単に連絡が取れるこの時代に、年賀状でのやりとりだけを、八年。もはやメールや電話のきっかけも失ったように思っていた。ましてや、会うなんて、それ相応のきっかけがないと、ありえない。
でも、もしかしたら、今が、これが、それ相応のきっかけなんじゃ。そう思うと、香奈ちゃんを誘うという選択肢しかないような気がしてきた。
今の私のことを香奈ちゃんがよく知らないということは、おじいちゃんやおばあちゃんに知られる情報も小学校の頃のことだけだし、逆におじいちゃんやおばあちゃんが何を喋っても、香奈ちゃんが今の私の生活に関与することもないし。
香奈ちゃんを選んだことで、他の友達から、なんであの子だけ、なんて言われることもない。それにこれをきっかけに、すっかり薄くなってしまった香奈ちゃんとの関係も、復活することだって考えられる。
うん、香奈ちゃんだ。香奈ちゃんを誘おう。それしかない。
ためらってしまうと、行動できない気がして、すぐさま、香奈ちゃんにメールを送った。
『突然のメールごめんなさい。小学校の時一緒だった佐倉しょうです。電話して話したいことがあるんだけど、いいかな?あ、変な話じゃなくて、久々に会わない?って話です』
普通のメールだから、既読かどうか分からないまま、五分、十分と過ぎていく。
無反応のまま時が流れると、途端に後悔が襲ってきた。この八年メールもしたことなかったのに、突然会おうって言われても困るか・・・・・・、送ったメールを取り消してしまいたい衝動に駆られる。しかしながら私の画面から送ったメールを消去したところで、香奈ちゃんの方には残ったままだ。消す意味が無い。
後悔の渦に飲み込まれて息苦しくなってきたところに、電話が鳴った。メールじゃなくて、電話。慌てて、出る。
『びっくりしたぁ。しょうちゃん、急に何ぃ。驚いたよぉ』
香奈ちゃんだ。昔の声と一緒かどうかは正直記憶にないけれど、語尾が伸びる喋り方はあの頃のまんま。
『私もびっくりした。電話かけてくれると思わなかったから』
『えぇえ?だって電話で話したいって書いてあったしぃ。違ったぁ?』
『いいよ、ってメールで返事が返ってきたら、私から電話しようと思ってたから』
『あぁ、そういうことぉ。でも、どうせ電話かけるんだったら、私からかけてもいいじゃんねぇ。あははは』
八年ぶりの会話と思えないほど、よそよそしさのない空気に、ほっとする。
一緒に少しずつ大人になっていった他の地元の友達と違って、あの頃しか知らないから急に子どもの頃に戻ったみたいな感覚になる。
『それでぇ?急に会おうって、どうしたのぉ。しょうちゃん、こっちに来る用事でもあったりするのぉ?』
『実はね・・・・・・』
私はホテルの繋ぐシステムのことを、香奈ちゃんに説明した。地元でも評判のいいホテルだけど、そんなことしてるなんて全然知らなかったと香奈ちゃんは驚いていた。