久々に会いたいし、これがいいきっかけになればと思って連絡したのだと伝えると、「面白そうだしぃ、会いたいしぃ、もう、絶対行くよぉ」と何の迷いもなく香奈ちゃんは再会を約束してくれた。
ただし、香奈ちゃんの方はどうしても休めない大学の講義があるから、とのことで、待ち合わせは午後五時以降じゃないと無理とのことだった。おじいちゃんとおばあちゃんに遅くなるけどいいかと確認したら、構わないとのことだったので、ラウンジで四人で過ごす一時間は午後五時から午後六時ということにした。
久々に連絡を取った翌日、再び香奈ちゃんから電話がかかってきた。やっぱり無理そうだと断られるのかと思ったら、用件はそうじゃなかった。
『しょうちゃん、次に繋ぐ人ってもう決めてるかなぁ。もしまだだったら、私繋ぎたい人がいるんだけどぉ』
『まだ決めてないよ。そうだよね、次のことも考えないといけなかった。香奈ちゃんが繋ぎたい人でいいよ。初対面だとラウンジの一時間のとき、ちょっと緊張するかもだけど、香奈ちゃんだってうちのおじいちゃんとおばあちゃんとは初対面で過ごすわけだし』
『そう、それで私も自分のおじいちゃんとおばあちゃんにしようかなって思ってぇ。香奈ちゃんのおじいちゃんとおばあちゃんから繋がったのがぁ、私たちから私のおじいちゃんとおばあちゃんに繋がるのってちょっといいなって思ってぇ。その後、どうなっていくかは知らないけどぉ、私たちの前後はそうしてみたいなぁって。いいかなぁ』
『もちろん』
十歳以上の年の差があって、私たちの翌日だから平日の木曜日に泊まれる人を探すのはそう簡単じゃない。おばあちゃんが言ってたように、自分で途切れるのは、ちょっと嫌だ。だから香奈ちゃんの申し出は願ったり叶ったりだった。
そうして二週間後、私たちはホテルで再会した。
私のおじいちゃんとおばあちゃんと、香奈ちゃんと私。そしてホテルからは、なんと副支配人さんというメンバーで、チェックインのためのラウンジで過ごす一時間が始まった。
香奈ちゃんとの積もる話もあったけれど、それは後で二人になってから話せば良かった。おじいちゃんが副支配人さんに、「これは本当に面白い取組ですね」と話しかけたら、色々語りたかったのか、副支配人さんが饒舌になった。結局一時間のほとんどが、副支配人さんの独壇場になってしまったけれど、それはそれで面白かった。
「創業十周年に始めたシステムなんですが繋がりが途絶えたら、それでおしまいって思ってたんですが、思った以上にみなさんきちんと繋いでくださるものですから、かれこれ、二十二年、ただの一度も途切れることなく続いているんです。我々としても、ここまで続くとは思わなかったですよ」
「チェックインの際に名前を記したそれ、家系図みたいですよね。繋ぐシステムというだけあって、前の人と次の人が線で結ばれていて」
おばあちゃんが、それ、と指さしたのは副支配人さんが持っていた巻物みたいなものだった。
「家系図を家宝にされるところもあるでしょうが、これは我がホテルの家宝、ホテルだから宿宝、とでも言うべきでしょうかね。とにかく、大事なものですよ」
「こんなに面白いこと、広めればいいのに」
私が言うと、副支配人さんはにこやかな笑顔のまま、首を横に振った。
「不特定多数に広めないから、ちゃんと、繋がるんじゃないかって気もするんですよ。
もちろん我がホテルでもインターネットには助けられていますし、SNSを否定するつもりも拒むつもりもないんです。だけど、それが介入できない世界ってのも、残っていいんじゃないかって思うんです。文武両道なんて言葉もあるでしょう、私は何でも両立させるのが好きなんですよ。年齢差十歳なんて条件も、このシステムでお泊まりになるお客様が偏らないようにって思いましてね」