おじいちゃんとおばあちゃんに「繋ぐ」のは、おばあちゃんのお琴仲間のしずえさんと、娘さんらしい。娘さんは、大学の友達から繋がれて、その友達はバイト先の店長さんから繋がれて、と、どんどんさかのぼる「繋がり」をおじいちゃんは聞いた限り全部書いたようだ。
おじいちゃんとおばあちゃんが、ホテルに泊まることになるのは、二週間先の火曜日だそうだ。もし、私がその翌日の水曜に泊まれるなら繋ごうと思うのだけれど、と言うことらしかった。
「大学の授業があるといえばあるけど、スイートルーム無料で泊まれるチャンスなんてめったにない気がするし、なんかその繋ぐシステムっていうの、すごく気になるし、行く、行きたい、行けるようにする・・・・・・」
「さぼれ、とは口が裂けても言えんが、学生のうちに色んな経験するのも大切だからなあ」
「おじいさんは、すぐそうやってそそのかすんですから」
「ばあさんこそこの話聞いたとき、いの一番にしょうちゃんに繋ぎましょうよと言っとっただろうが。そもそもの主犯はばあさんだ」
「まあ、主犯だなんて、人聞きの悪い。素敵なお話だから、しょうちゃんに、と思ったんですよ。それに大学生なら、まあ、何とか都合がつきやすいかとも思いましたし」
「ちょっと、誰と行くかも含めて考えてから返事してもいい?」
「もちろん。でも、無理そうなら来週くらいには言ってくれるかしら。せっかくご縁のあっったこの繋ぐシステム、どうせなら私たちもちゃんと次の人に繋ぎたいから、もしもしょうちゃんがダメなら別の人にお声かけしたいしねえ」
何でも次の人に繋げなくなったら、ホテルはこの取組を潔くやめるそうだ。この取組についてSNSに発信しないなら宣伝効果も無いのにどうしてそんなことしてるのか分からない。途切れて終わりになったらそのほうが部屋を普通に貸しに出せて儲かるし、ホテルとしては止めどきを待っているのかもしれないなあと思うけど、自分で終わりになるのは嫌だというおばあちゃんの気持ちも分からなくはない。
「わしらは暇な身の上だから、ラウンジで一時間、の時間はしょうの好きな時間でいいぞ」
なんでも条件の一つ、ラウンジで一緒に過ごす一時間は、相談で決めていいそうだ。朝早くチェックアウトを済ませて行きたいときは、朝の一時間でも構わないし、夜遅くなっても構わない。お互いの都合に合わせて、ということらしかった。
言われてみると、ちょっと大変かもしれない。普通のチェックアウトと言うとたいてい午前中で、チェックインは午後三時以降ってことが多い。チェックアウトする人とチェックインする人が共にホテルで時間を過ごさなければならないわけだから、どちらの都合に合わせるかとか、ちょうどよい、を探るとか一苦労かもしれない。
ラウンジで一時間一緒に過ごすっていうのも、一緒に泊まる誰かには初対面の人って可能性もある。例えば私が友達を誘っておじいちゃんとおばあちゃんから繋がれたとして、友達にとっては、私のおじいちゃんおばあちゃんなんて、これまで会ったこともない人だ。しかも一時間過ごす中で、おじいちゃんやおばあちゃんがその友達に、またはその友達がおじいちゃんおばあちゃんに、共通の話題となる私について喋る際、知られたくないことを喋られてしまうかもしれないというリスクも伴うわけか。
そう考えると、なかなか手強い条件かも知れない。何を知られても大丈夫な人を誘うか、事前に余計なことは言わないでね、とおじいちゃんおばあちゃんに対しても、またその友達に対しても十分に言っておくかだ。
そこまでしてスイートルームに泊まりたいかどうかだけど、・・・・・・うん、泊まりたい。泊まりたいと思う。泊まろうと思う。
誰と泊まるかとか、そういうのはちょっとじっくり選考しよう。