おばあちゃんが、きょとんとした顔をした。
「これ、これ。SNSで見つけて」
スマホを見せると、おじいちゃんとおばあちゃんは顔を見合わせて苦笑いした。
「わしらもスマホなら持ってるけど、しょうみたいな若い子のようには使いこなせんなあ。地図は便利だと思うけどな。いろんな機能を用途に合わせて使う若者には圧倒されてしまうなあ」
「そんなに難しくないと思うけど」
「尻込みするのは、難しそうだからって理由だけじゃないんだよ」
「そうなの?」
「私は普通に難しそうだから、敬遠しちゃうけど。あ、あと目が疲れるからかしらね」
「肩も凝る」
おじいちゃんがすかさず付け足した。実際、おじいちゃんの理由とやらが、それで全てなのかどうかは分からないけれど、おじいちゃんのスマホ事情を知ったところでどうということもない気がしたので、それ以上深く聞くのはやめておいた。おじいちゃんが言いたいのなら言えばいいけど、おじいちゃんの方も別にそれ以上言う気も無いらしかった。
「でも、そうか。しょうちゃん旅行に行ってきたばかりなのねえ。良かったらしょうちゃんにホテルを繋げようと思ってたんだけど、お母さんたちにしようかしら。でも平日だからお仕事休めないだろうし、ご近所さんに繋げましょうか、おじいさん」
いまいち全貌がつかめないことを、おばあちゃんがつらつらと話し続ける。
ホテルを、繋ぐ?どういうこと?
「別に旅行に行ったばかりだから、すぐに旅行に行っちゃ行けないってきまりはないだろ。聞くだけ聞いたらどうだ。あんないいホテルのスイートルームに無料で泊まれるチャンスなんてそうないんだから」
「え、ホテルのスイートに無料で泊まれるの?」
ホテルのスイート、飛行機のビジネスクラス。1回くらいは体験してみたいものリストに名を連ねている。それが無料だなんて、聞き逃せない。どこのホテルかは知らないけど、そんなの関係ない。
「条件付きだがな」
おじいちゃんがプリンを食べる手を止めて、まっすぐ私を見た。
条件。無料より怖いものはない、ってやつだろうか。とんでもない条件があるんだろうか。
「次に泊まる人と、それからホテルの従業員一人と合計五人で一時間一緒にホテルのラウンジで過ごすこと、だ」
神妙な面持ちでおじいちゃんが述べたのは、それほどの神妙さを要求しないような、たいしたこのない内容だった。
「え、それだけ?」
拍子抜けして、ちょっと高い声が出てしまった。
「まあ、細かく言うと、スマホか?Sなんとかでこのことを広めないとか、この『繋ぐシステム』で利用できるのは一生に一人一回一泊だけとか、宿泊人数は必ず二人であることとか、先に泊まった一組と次に泊まる一組のそれぞれ一名どちらでも良いが年齢差が十あることとか、いくつか他にもあったと思うが、まあ、その程度だ」
「なんて名前の、ホテル?」
聞いた名前を、すぐさま検索する。
「わ、ここ、めちゃくちゃキレイで大きいホテルじゃない。しかもうちから二時間半くらいで行けるし。え、泊まりたい、泊まりたい。繋ぐシステムって何?詳しく教えてよ」
おじいちゃんとおばあちゃんもこれを二日前に聞いたばかりだったらしいけど、何でもメモするおじいちゃんの手帳には、そのとき聞いたことがびっしり書き込まれていた。