ストップウォッチで計れば同じだとしても、体感がそもそも違う。同じ五分だとしても。
「せっかくだから、さっそく頂きましょうか、これ」
お土産のプリンを箱から取り出して、机の上に3つ並べたおばあちゃんは、キッチンに向かった。
「おじいさんはコーヒーでいいわね。で、しょうちゃんはジュース・・・・・・」
「私もコーヒーにして」
え。見るからに、「え」と驚いた顔が二つ。おじいちゃんと、おばあちゃんは似たような顔をして私を見た。
コーヒーなら、本当は高校生の頃からブラックで飲めた。でも、おじいちゃんとおばあちゃんちでは、孫にはジュースが出されるものと決まっていた。だから今日という今日まで、「しょうちゃんはジュース」という、いつまでも子ども扱いを甘んじて受け入れてきたのだけれど、大学生にもなったし、初めてできた彼氏とも別れたし、ほろ苦いコーヒーを堂々と飲めるにふさわしい人間になったような気がして、ついコーヒーを所望してしまった。
「コーヒーでいいの?」
「うん。ブラックがいい」
「しかもブラックか。わしなんか砂糖三つにミルクが必須だぞ」
想像しただけで甘ったるい。今までおじいちゃんのコーヒー事情に注目したことなかったけれど、改めて聞くと、「コーヒーは大人の飲み物」って言うには、そのカスタムは少々お子様舌なのでは、と思ってしまう。
おじいちゃんなのに、子ども。やっぱり私は少し大人になったんだろう。小さいときは、おじいちゃんはおじいちゃん以外の何者でも無く、おじいちゃんやおばあちゃんに「子どもじみた一面」が潜んでいるなんて想像したこともなかった。
おじいちゃんの甘そうなコーヒーと、ミルクだけ入れたまろやかそうなおばあちゃんのコーヒーと、ブラックコーヒーの私。
机の上に三者三様のコーヒー。コーヒーだけ見ていると、私が一番クールだな。と、声には出さずに思っておく。
「そんなにコーヒーが好きだったの。ニコニコしちゃって」
おばあちゃんに指摘された無意識の笑みを苦笑いに変える。コーヒーが好きだからニコニコしていたというわけではないけれど、私が一番クール、なんてしょうもないことを考えていたことを馬鹿正直に言ったら、それこそ「子どもねえ」と笑われてしまいそうだから、おばあちゃんの勘違いは訂正せずにおいた。
「うまいなあ、これ」
一人さっさとプリンを食べ始めていたおじいちゃんが、満足げに一言。そう言ってもらえると並んで買ってきたかいがあるというものだ。
「あらやだ、本当。さすが東京ねえ」
そう言って、おばあちゃんもパクリ。買ってきた私もまだ味は知らないので、期待しながら口へと運ぶ。うん、美味しい。ちょっと高かったけど、これなら納得の味だ。
「ひそかに評判だったから、気になってたけど、これはアタリだね」
「ひそかに、なのに、どうしてしょうちゃんは知っているの。東京の人でもないのに。東京のお友だちにでも教えてもらったの?」