ナオミはブランドショップに行って、高級なアクセサリーやらバッグやらを大量に買った。大山はその値段に腰が抜けそうになったが、お礼をすると言った手前、お金を払わないわけにはいかなかった。
次に2人は高級レストランに行った。ナオミはそこでも高級な料理を次々と注文した。大山にとってはまたもや大きな出費だった。
道を歩いていても、どこの店に行っても、美人でスタイルのいいナオミはまわりからの注目を集めた。
さらに、人々はナオミの美しさに見とれた後に、隣りにいる大山を見て「なんでこんな男があんな美人と?」と驚きの表情を浮かべるのも、どこに行っても同じだった。
レストランでは近くの席の人のひそひそ話が大山の耳に入ってきた。
「あの人、見た目はさえないけど、あんな美人を連れているんだから、きっとすごいお金持ちだったり、何か魅力がある人なのよ」
自分には何の魅力も何もないということはわかっていたが、大山はそう見られるのは悪い気がしなかった。
2人はホテルに帰ってきた。
大山は、帰るや否やソファに寝っ転がってテレビを見始めたナオミに話しかけた。
「今回は最初はいろいろあったけど、君のおかげで商談もうまくいったし、よかったよ」
「あっそ」
ナオミはいつものように適当に返事をした。
「次にここに来たときも、また君に会えるといいね」
大山の言葉にナオミがぴくっと反応した。
そして、一瞬の間があった後でナオミが口を開く。
「それはないわ」
「えっ?」
ナオミのそっけない言い方に大山は少し驚く。
「私は、あなたがあの日チェックインするとき、今回宿泊するあなたにとって本当に必要な人として選ばれたのよ。まあ、本当に必要な人というのが私というのが当たっていたかどうかは知らないけどね」
大山はナオミの話を黙って聞いている。
「だから、ここにいる私は、あなたがチェックインしてからチェックアウトするまでしか存在しないのよ」
「……」
「あなたがもし、次にホテルに来たときに私に会いたいと思っても、今の私が現れることは絶対にないわ。同じ名前だったり、外見が今の私に似ている人が来ることはあるかもしれないけど、今の私が現れるのは今回の一度きりよ」
「……そうか、だから一期一会ホテルなんだ」
「そういうことよ」
「そうか、ちょっと残念だなあ」
大山がつぶやく。
しばらくの間があった後で、ナオミがテレビを消して立ち上がった。
「ま、私もさえないあなたが遅刻して慌てるさまや資料を忘れておどおどしている姿を見るのは滑稽で楽しかったわ。外で食事や買い物をするのも気分転換になったしね」
ナオミが大山を見て微笑んだ。
その笑顔は、最初の頃の大山を見て馬鹿にしていた笑いではなくて、本当にかわいらしい笑顔だった。
大山はドキッとした。