一度しか会えない。
だからこそ、素敵な出会いになる。
大山は期待と若干の不安が入り混じった気持ちでホテルに向かっていた。
「どんなホテルなんだろう?」
仕事のことなど完全に忘れて、今回の出張で泊まるホテルのことばかり考えていた。
大山は今年40歳を迎えたさえないサラリーマン。たいして仕事もできず、いまだに何の肩書きもない平社員のままだ。社内でもダメ社員扱いされている。
外見もぱっとせず、かといって社交的で話し上手というわけでもなく、しかもアニメオタクとあって、40歳になっても独身のままだ。
大山の今回の出張の目的は、会社にとって大事な顧客数名との商談だった。といっても、気難しい相手も多く、うまくいく可能性は極めて低い。大山自身も大山の上司もそのことをわかっていた。
ただ、会社としてはその顧客を無視するわけにもいかず、顔は出しておいたほうがいいだろうということになり、仕方なくダメ社員扱いされている大山を行かせることにした。
「大山君、頼んだぞ。この商談を成功させれば君の出世にもつながるぞ」
上司は出張前に力強く言った。
しかし、大山はそれが口先だけで、本当は全く期待なんてされていないということはわかっていた。
「それどころか、うまくいかなかったときに責任をすべて俺に押し付ける気なんだろう」
そう思うと、大山は出張に行くのが憂鬱になった。
少しやけになった大山は、どうせ商談はうまくいかないだろうし、せめてホテルぐらいいいところを取って夜ぐらいは楽しく過ごそうと考えた。
大山はインターネットでホテルを検索した。すると……
「一期一会ホテル?」
ひとつのホテルが大山の目に止まった。
「当ホテルのコンセプトは『素敵な出会い』」
「当ホテルでは、お客様が本当に必要としている人が、お客様にとって最高のサービスを提供します」
「素敵な出会い……最高のサービスを提供する……」
大山は、自分の好きなタイプの女性が自分の身のまわりの世話をしてくれるのを想像した。
「ひょっとして高い金を取って変なサービスをする怪しい店じゃないよな?」
大山は少し怪しいと思って、ホテルの料金を調べた。
確かに普通のビジネスホテルよりは高額だったが、法外の値段というわけでもなく払えない額ではなかった。
「もし変なホテルだったら、すぐにチェックアウトしてしまえばいい」
大山は不安な気持ちもあったが、ホテルのコンセプトの「素敵な出会い」への期待が捨てられずに、一期一会ホテルを予約した。
大山はようやく一期一会ホテルに到着した。
ホテルの外観は近代的でオシャレなビジネスホテルといった感じだが、それ以外には取り立てて普通のホテルと大きく変わっているといった様子はなかった。
フロントへ行くと、スタッフが笑顔で対応してくれた。スタッフは見た目もきちんとしていて、話し方も丁寧だ。大山が心配していたような怪しい雰囲気はない。