「一期一会ホテルにようこそおいでくださいました。当ホテルでは、お客様が本当に必要としている人が、お客様にとって最高のサービスを提供します」
スタッフはインターネットに書いてあったのと同じ内容のことを口にした。
「すみません。客が本当に必要としている人ってどうやって調べるんですか? これから面接でもするんですか?」
大山が質問する。予約するときには、それについての説明が全くなかったからだ。
「では、その件についてご説明させていただきます」
と言って、スタッフは大山の前にパソコンのような機器をおいた。
「当ホテルでは、お客様が本当に必要な人を見つけるために、最新式のAI機能を搭載した機器を使います。それがこれです」
大山は機器を見る。大きさも形も普通のパソコンと同じものにしか見えず、そんなにすごい機器とは思えない。
「お客様にここの画面に手をあてていただきます。その間、お客様はどういった方にサービスをして欲しいかを想像してください。すると、この機器が、お客様が最も必要としている人を見つけ出します」
「はあ」
大山は気の抜けたような返事をした。どう見ても、目の前の機器にそんなすごいことができるとは思えなかった。
「それで、この機器が見つけ出した人がサービスに来てくれるというわけですね」
スタッフはにこやかに笑いながら丁寧に返事をする。
「お客様のサービスを担当するのは、正確には『人』ではありません」
「は?」
大山は思わず訊き返す。スタッフが言っていることが理解できなかった。
「人ではなくて、人の姿をしたロボットがサービスをします」
「ロボット?」
「見た目はもちろん、普通の人間と全く変わりません。最新式のAI機能搭載の機器によって作られたそのロボットが、お客様が最も必要としている相手になります」
「ロボットですか……」
大山は「素敵な出会い」が期待していたものとは違った形になりそうで少しがっかりしたが、ここまで来たら帰るわけにもいかない。
「お客様、それではここに手をあてていただいてよろしいでしょうか?」
大山はその機器に手をあてた。そして、馬鹿馬鹿しいとは思いながらもほんのちょっと期待をして、1分間、自分が好きなアニメキャラの女性やメイドの格好をした女性などを想像した。
「ありがとうございました。以上で終了です」
1分間が過ぎ、大山は機器から手を離した。自分でもしょうもない想像をしてしまったと少し情けない気持ちになった。
「では、1時間ほどしたら、お客様のお部屋にお客様にとって本当に必要な人がやって来ます」
大山がこれで説明が終わったと思い部屋に向かおうとしたとき、スタッフが声をかけた。
「お客様、念のため申し上げておきますが、お部屋にはお客様が想像したような人が来るとは限りません。あくまで機器がお客様にとって本当に必要な人とと判断した人が現れます。それでは素敵な出会いを」
「え?」
大山は今のスタッフの言葉が気になって振り返った。スタッフはさわやかな笑みを浮かべて微笑んでいる。
部屋に着いた大山はそわそわと落ち着かない様子で部屋の中を行ったり来たりしている。
大山が予約したのは一番高価な部屋だったこともあり、広くてオシャレな作りだった。キッチンもあったので、「ひょっとしてここに来る人が食事の用意もしてくれるのかな?」などと想像し、大山の期待も膨らんでくる。