大山は自分の好みの女性が来ることを期待しながら待っていた。
そして、1時間が過ぎた。
「失礼します」
部屋のチャイムが鳴ったので、大山が緊張しながらドアを開けると、そこには1人の女性が立っていた。
モデルのようにスタイルのいい、しかも長い黒髪の似合う美しい女性だった。
もちろん、ホテルの人の話によれば、本当の人間ではなくロボットということだったが、見た目、しぐさ、すべてが人間の女性そのものだった。
女性のあまりの美しさに驚いて、大山は黙ってぼーっとしていた。
女性は部屋に入ると、丁寧に頭を下げてあいさつをした。
「大山様、よろしくお願いいたします。今日からここでサービスをさせていただくナオミです」
ナオミと名乗った女性は大山に向かって微笑んだ。
しかし、ナオミは大山を見た瞬間、怪訝そうな顔を浮かべた。
「あのあなたが大山様?」
「ええ、そうですが……」
すると、ナオミはタブレットのようなものを取り出して画面と大山を交互に見比べた。
そして、大きなため息をつくと、それまでの丁寧な態度が嘘のように急に横柄な態度になって、部屋のソファに座り込んだ。
「一番高価でオシャレな部屋のお客様だから、イケメンでお金持ちな男性が来ると思って期待していたのに……ただのさえないおっさんじゃん」
「え?」
急に変わったナオミの話し方に大山は唖然とした。
ナオミはタブレットを再び取り出す。
「40歳、サラリーマン、仕事のできないダメ社員、独身。しかも、アニメオタク……は? なんでこんな人生終わっているような奴がこんないい部屋予約したの、ウケるー」
ナオミがゲラゲラ笑っている。
「アニメキャラの女性やメイド姿のかわいい女性を希望……ひょっとしてただの変態なんじゃないの?」
ナオミが眉をひそめて大山を見る。
大山は反論しようとしたが、ナオミの態度に圧倒されて口を挟むこともできない。
「おっさん、言っとくけど、ここのホテルは変なサービスをするお店じゃないから。あくまで食事の用意や掃除をするだけだからね。私に変なことをしようとして体に触ったりしたら、アラームが鳴って警備員が駆け付けてくるからね」
ナオミが蔑んだ目で大山を見る。
「誰がそんなことをするか。それよりなんでお前のような口の悪い奴が来るんだ。その客にとって本当に必要な人が来るんじゃなかったのか?」
ナオミの態度にさすがに我慢ができず、大山が言い返す。
「そんなこと私に言わないでホテルに言ってよ。私だって、どうせならもっとお金持ちでイケメンの人にサービスしたかったわよ」
大山は頭に来てフロントに電話をかけた。さっき説明をしてくれたスタッフが電話に出たので、大山は文句を言って別の人に交換してくれるように頼んだ。
「申し訳ございませんがそれはできません。最新式の機器が、お客様の目の前にいる人こそがお客様にとって本当に必要な人だと判断したんです。そのことがいずれわかりますよ」
と丁寧に言って、スタッフは電話を切ってしまった。
「こいつが俺にとって本当に必要な人だと……」
大山は馬鹿にしたような目でこっちを見ているナオミを見て茫然としていた。