「夕食を作ったからさっさと食べてね。皿洗いもしなくちゃならないから急いで」
ナオミが面倒くさそうに大山に言った。
ナオミはソファに寝っ転がって、テレビを見てゲラゲラ笑っている。
大山はテーブルの上に用意された食事を見た。
「何だこれは?」
そこには、ホテルで提供するとは思えない、いやそれどころか、一人暮らしの男が作った料理のほうがましなんじゃないかと思えるくらいのひどい料理が並べてあった。
真っ黒に焦げた魚、具が入っていないみそ汁、のりのようにべったりしたご飯……大山はあきれてものが言えなかった。
「捨てるの面倒だから残さず食べてね」
大山はナオミのひと言にカチンと来たが、今さら外に食べに行くのも面倒だったので、仕方なくその料理を無理やり食べた。
その後、明日の商談の準備をしていたが、隣りではナオミがテレビを見てゲラゲラ笑っているので、全く集中できない。
そうこうしているうちに夜はふけて、ナオミはテレビを消して大山の部屋の隣にある自分の部屋にさっさと戻っていった。
「さっきも言ったけど、変なことしようとしたら警備員が駆け付けてくるからね。まあ、あんたにはそんなことをする度胸もなさそうだけど」
「なんて女だ……」
大山は怒りを通り越してあきれていた。ナオミがいなくなってようやく静かになったので、大山は商談の準備を再開した。準備が終わる頃には朝方近くになっていた。
次の日、目を覚まして時計を見た大山はびっくりしてベッドから跳ね起きた。
商談の約束の時間まであとわずかしかなかったのだ。昨日遅くまで起きていたせいで寝過ごしてしまったらしい。
大山はあわてて出かける準備をした。すると、寝起きで顔も洗わず、髪もぐちゃぐちゃのままのナオミが部屋に入ってきた。
「ちょっとなんなの、バタバタうるさいわよ」
「なんで起こしてくれなかったんだ、俺の世話をするのがお前の仕事なんじゃないのか?」
「何時に起こしてくれなんて言ってなかったでしょ。なんで私のせいにするのよ!」
大山はここで言い争いをしている時間もなかったので、準備が終わるとすぐさま部屋を出て、商談の場所へ向かった。
結局、大山は大事な商談に遅刻した。
相手は激怒して、商談に関する話を聞くこともなく帰ってしまった。
大山は力なく帰り道を歩いていた。
「あのホテルの、あの女のせいだ」
大山は、その日は外で食事を済ませてからホテルに帰ってきた。
「もう、あの女が作る料理を食べるなんてごめんだ」
部屋に帰ってくるや否や、ナオミが怒りだした。
「ちょっと! 遅くなるならそう言ってよ。ご飯を作るかどうか迷ったのよ」
「え? 作ってあるの?」