しかし、ナオミはすぐにもとのぶっきらぼうな表情に戻ると、
「今日は疲れたからもう寝るわ。明日はチェックアウトなんだから、ちゃんと時間まではこの部屋を出ていってよ」
と言い放って、部屋を出ていった。
大山は苦笑いを浮かべていた。
「一期一会か……もう会えないのか……」
大山はその夜なかなか眠れなかった。
翌朝、目を覚ますとテーブルの上には朝食の用意がされていた。
そこに置き手紙があった。手紙の1枚目には、
「さっさと朝食を食べて、時間までに遅れずにチェックアウトしてね。私はもうやることがないから帰るわ」
と書いてあった。
大山はその文章を読んで苦笑いした。
「最後まで変わってないなあ」
大山はナオミの作った朝食を食べた。
「料理がまずいのも変わってないなあ」
大山は手紙の2枚目を読む。
「あなたは最初から最後までさえない男だったけど、あなたといたこの数日間は悪くなかったわ。さようなら」
「さようなら……か」
大山は朝食を終えると帰る準備をしてチェックアウトした。どこかにナオミがいるんじゃないかと期待したが、結局ナオミに会うことはなかった。
次の年、大山……いや大山課長は一期一会ホテルの前に来ていた。
前年の商談を見事に成功させた大山は課長に出世していたのだ。
大山は今回も出張でこの地域にやって来た。もちろん、泊まるのは一期一会ホテルと決めていた。
大山はフロントで例の機器に手をあてた。
その間、大山はずっとナオミをイメージしていた。あの生意気な口調に態度、商談で見せた見事な立ち居振る舞い……「ナオミ、ナオミ! 君にまた会いたい!」
大山は心の中で叫んだ。
大山がチェックインして1時間後、ドアがノックされた。
大山がドアを開けると、そこには女性が立っていた。
その女性はナオミ……ではなく、メイドの格好をしたとてもかわいらしい女性だった。
「いらっしゃいませ、ご主人様。しずくです。よろしくお願いします」
しずくちゃんは、まるでアニメの登場人物のようなかわいい声であいさつをすると、つぶらな瞳でじっと大山を見た。
「ご主人様、あまりうれしくなさそう。もっと他の人がよかったですか? 私じゃダメですか?」
と言って大山の顔を一途に見ているしずくちゃんを見た瞬間、大山の表情が一気に崩れ、ニヤニヤ、デレデレした表情に変わる。
「そんなことないよ。しずくちゃんのようなかわいい子に来てほしいってずっと思っていたんだよ。しずくちゃんに会えて最高に幸せだよ!」
一度しか会えない。
だからこそ、素敵な出会いになる。