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『旅が導く縁』仲井間矢輝

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 声をかけてきたのは中年くらいの男性だった。確かに危なかったとは思うが、すぐやめたんだしそんな口調で注意しなくても、と、少しムッとしてしまった。
「君、その時計、かなり値打ちのあるものなんじゃないのか? その価値を分かっていないのか?」
 どうも危ないからというより価値のあるものを邪険に扱ってたことに怒ってたっぽい? しかしおじいさんもそこそこ値打ちがあるとは言ってたが、こんなにボロボロだとアンティークとしても価値はなさそうなものだが……この人は懐中時計に詳しいのだろうか。
「いやー、実はこれもらいものでして……それに古びてるし全然動かないんで値打ちはないと思いますよ。売りに出そうとは思ってるんですが、買い手がつくかどうかも怪しいんじゃ……」
「いやいや、君、これかなり昔の貴重なやつじゃないか。ほら、ここにメーカーも書いてあるだろ、Waltham(ウォルサム)って。昔のメーカーさ。それにこれは古くてサビちゃあいるが銀無垢といって金ほどではないが上等な時計なんだぞ。このモデルは新品なら数十万は下らないものだ、中古でも十万はするくらいだぞ」
 そんな価値のあったものなのか。おじいさん、がっかりしてごめんよ、すごい時計をくれたんだね……。しかし、
「さすがにここまで状態が悪いとそれだけの価値はないんじゃないですか?」
「いやそんなことはないさ、その時計なら僕だったら二十万円でも出すから譲ってほしいくらいだ。僕は懐中時計を集めるのが趣味でね。それはずっと前から欲しかったモデルだ。手入れすれば見栄えも大分ましになる」
「に、二十万……」
 思わずよろけそうになる。一度はがっくりしてしまったが、改めてこうわらしべ長者が上手くいくと逆に怖くなる。
「少なくとも僕にとって価値あるものを君はぞんざいに扱ってくれたから思わず注意したんだ」
 ごもっともだ……。
「それとももっとお金が必要ならもっと上乗せしてもかまわないぞ。それだけ僕にとっては探してても見つからなかった、この場で出会えたことが奇跡とも言える代物なんだよ」
 確かにかなり昔のもののようで今では手に入りにくいのだろうが……コレクターにとってはそれだけ価値があるものなのか。物の価値というのは深い。
「いや、さすがに僕もこれはもらい物がもらい物を呼んでというかなんというか……とにかくそんなに労して手に入れたものではないのでほんとにタダで譲ってもいいくらいなんですよ」
「ほう、わらしべ長者みたいなものか、面白いじゃないか。しかし僕もさすがにタダでいただくというのは虫のよすぎる話だ。それに君のわらしべ長者をそんなところで終わらせるのはつまらないだろう? 何か欲しいものでもあれば言ってくれればいいさ」
「そ、そんな気を遣っていただかなくても……でも、今晩の宿は探していたところですね」
「なに、宿か。よし、それならここの近くに縁というホテルがあったろ。あそこでどうだ」
「あ、いや、縁はスイートルームしか空いてないみたいで、他の所を探してたんですよ」
「うん? 何を言ってるんだ、スイートルームに泊まればいいじゃないか。それだけの価値があるんだよその時計は。さあ、泊めてやるから早く行くぞ!」
「え、ほんとにいいんですか?」
「なんなら安いくらいだ。いいじゃないか、わらしべ長者の締めくくりはスイートルームだ。話の種にもぴったりだろ?」
「あ、ありがとうございます。それじゃあ、遠慮なく泊まらせていただきます!」
「うむ、良い返事だ。しかし君は人柄が良いな。きっとそのわらしべ長者の道中もたくさんの人を幸せにしてきたんだろう」

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