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『桃色の絆』相川和彦

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 胸のドキドキは止まらなかった。普段は威厳のあるあの社長が。
 「ホテルという特別な空間では、時に人間の本性があらわれる。清濁併せのむ覚悟を持つことも、ホテルマンとしては大事な要素だ。あまりいい教材ではないけど」
 確かにこの一か月、スムースな接客ばかりだったわけではない。私がチェックインを担当した客が後で警察につかまり、指名手配犯だと聞かされたこともあった。
 シングルに宿泊していた女性を訪ね、ある夫婦がフロントに来た。二人共顔が真っ青。詳しく話を聞くと、その宿泊女性がまだ15歳!綺麗に化粧をして、見た目は二十歳以上だとホテルスタッフは思い込んでいた。彼女は家出し二週間が過ぎていた。各地のホテルを泊まり歩き、お金を得るためそのホテルで男性客に身体を売っていた。スマホのGPSで居場所を追ってもなかなか捕まらなかったが、両親はようやくここで追いついた。娘はドアを開けず籠城していたが、総支配人の判断でマスターキーを使った。両親の顔を見た娘は号泣し、警察に保護されホテルを後にした。
 思い返せば色んな経験をさせてもらった。 
 「人間ドラマが詰まっていますね……ホテルは」
 「そう。そのために我々は舞台を整え、万全の準備でお客様をお迎えするんだ」
 エレベーターを出て、私はお辞儀し、直哉の元を離れかけた。
 「明日、もしよかったら付き合ってくれないか?」
 「えっ」男女間の付き合いでないことくらいわかる。
 だが素直にその問いかけが嬉しかった。
 「午前中浜辺にいるから、よかったら青木にも手伝ってほしいんだ」
 直哉は明日、午後からのシフトイン。小川も川島も一緒だ。お休みなのは私だけ。本当は洗濯や買い物と朝から動きたかった。しかし直哉がプライベートで誘ってくれたのは初めてだから、迷いはなかった。
 「いいですけど……何を手伝うんですか?」
 「探し物。詳しいことは明日話すよ。ラフな格好で来てくれ」
 手を振った直哉はホテル本館へと戻っていった。一段落と思っていたこのホテルでのドラマは、まだ終わらないらしい。

 
 翌日、約束通り浜辺へ行くと、パーカーに短パンをはいた直哉が裸足でウロウロしていた。離れた場所では三上婦人と思しき女性が流木に腰をおろしている。
 「桜貝を探してほしいんだ、綺麗なやつ」直哉は四つん這いになって砂をさらっていた。この辺では冬から春に見かける、美しいピンクの貝だ。事情はのみこめないが、私も四つん這いになって貝を探した。しばらくして、目ぼしい貝が六つ七つ見つかる。
 「そろそろ教えてください。なぜこんな事を?」
 どかりと砂浜に座った直哉は、沖を眺めている三上婦人を見ながら、話しだした。
 「去年、あの奥様が七十七歳の喜寿を迎えてさ。ご主人、ネックレスを作ったんだ。この浜で拾った七十七枚の桜貝でね」
 「素敵」思わず声が出た。
 「その後、去年の暮にご主人が亡くなった。奥様はそのネックレスを大切にしていた。でも、それを飼犬の柴犬に噛まれちゃったんだって。バラバラになって、数えたら桜貝が十五枚足りなかった。それで今、こうして」
 直哉は自分の拾った綺麗な貝を私に見せた。そういう事だったのか。
 「マネージャーのお気持ちはわかります。けど、どうしてそこまで三上ご夫妻に思い入れが強いんですか?夕べ、総支配人までいらっしゃって」
 それが私の率直な疑問だった。ホテルには常連もいればVIPもいる。だが三上婦人に対する思いは、度が過ぎるほどに思えた。

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