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『桃色の絆』相川和彦

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 彼女の言葉に留めていた涙がこぼれる。他の先輩方も近くに寄ってきて、励ますような言葉を次々かけてくれた。
 「本社での最終研修、桜リゾート入りをアピールしろよ。川島先輩みたいになりたいので、お願いしますって」川島は最後まで憎まれ口を叩いている。
 常彩ホテルは県内に三箇所あり、県外でも四箇所営業している。家から通えるのがここ桜リゾートだから、第一希望として出していた。だが各所独身寮もあるから油断はできない。
 私はフロントを後にした。着替える前に直哉にも挨拶しようと姿を探す。
 明日誕生日を迎える遠藤夫人のディナー。直哉に促され私も先ほど参加させてもらったが、感動的だった。それもそのはず。ケーキは料理長の会心作。出来栄えや味もそうだけど、遠藤ファミリーはそのサプライズをとても喜んでくれた。それが何よりだろう。肝心の直哉はその場を私に任せると言って、別の問題処理に向かっていった。その時から姿を見ていない。
 「あっ!」はるか先で、直哉が従業員専用口に入っていくのが見えた。駆け足にならない程度の急ぎ足で私は彼を追った。しかし専用口まで来た時には彼の姿がなかった。
 エレベーターの数字を目で追う。表示は十八階で止まった。このまま黙って帰る気にはなれない。配属がここでなければ、もう一緒に働くチャンスがあるかどうか……。
 そう思い私はエレベーターで彼を追うことにした。十八階のボタンを押す。
 それにしても……。十八階はVIP専用階でスイートルームが四部屋あるだけだ。今日は地元の通信機器会社社長、東京在住の投資家、近くで講演を終えたある県の知事などが泊まっているはずだが。
 十八階に着き扉が開く。出て左右を見たが直哉の姿はない。私はとりあえず右に進み、突き当りの角を曲がろうとした。
 その時だ――。頭が真っ白になる。
 私はすぐに身体を引っ込め、顔を半分だけ出して廊下の様子を窺った。
 目に映る光景。白いブリーフ一枚の男が片腕で胸を隠し、もう片方の手でドアを優しく叩いている。「いれてよ~」と言いながらも、顔は半笑い。
 通信機器会社の社長・田崎様。私は二度目だが、彼はこのホテルの常連と聞いた。地元の企業団体会合やパーティーで度々このホテルを使ってくれているらしい。
 状況から見てインロック。しかし中には誰かいるようだ。ならば中からドアを開ければいいではないか……。直哉が田崎の元で何かを訴えている。その後、直哉はマスターキーカードでロックを解き、田崎は「オホホホ」と口を押えたまま部屋に戻っていった。
 こちらへ戻ってくる直哉は頭をかいている。
 茫然と動けぬまま、逃げ場もないまま、私は直哉に見つかることになった。
 「見て……たのか」二人で非常口から従業員専用エレベーターへ向かう。
 最後の挨拶がしたかったのだと、私はそれだけを言った。
 エレベーターの中、無言だった直哉は腹を括ったように私を見据えた。
 「研修最後に、変なもの見せちまったな」直哉の言葉に私は必死で首を振った。
 「田崎社長は、ああいう嗜好でな……。ガタイのいいひげ面の側近。彼はそっちの方でも側近だが、部屋の中では立場が逆転する。社長を辱め、部屋の外に追い出し、助けない。初めはおれも驚いたけど。社長から直々に呼ばれて、私が泊まる時には追い出されることが度々あるから、君に直接電話すると。社長には俺のスマホの番号を教えてある。まぁ、秘密厳守で頼むな」

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