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『桃色の絆』相川和彦

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 直哉が笑顔で訴えている。
「おだてんじゃねぇよ」常彩ホテル総料理長・浜口はまんざらでもない顔でプランを練り始めた。やがて宙にさまよった目線が私で止まる。
 「あら、研修中のお嬢さんだね、どうしたの?」白い綿生地のコック・コートに赤いマフラー。いつ見てもスタイリッシュなおじ様だ。   
 「失礼します。マネージャーに緊急の用事があって……」
 当の直哉は、ホワイトチョコの薄い板にチョコペンで文字を書き始めた。どうやらバースデイケーキらしい。
 「ご苦労さん。もういいから、直哉君。急ぎらしいぞ」そう言ってチョコペンを取り上げた浜口が、尻を叩いて直哉を追い出す。
 「ケーキを出すタイミングだけ教えてくれ。ライティングとか音楽は君に任せるから」浜口に礼を言った直哉が早足に歩き出す。
 「今日、バースデイプランありました?」宿泊客の情報は、こまめに読み込んでいるつもりだ。だが今日のお客様で誕生日の人はいなかったはず……。
 「遠藤様だよ。青木がご主人とチェックインの手続きをしている時、後ろで小学生の息子さんが奥様に言ったんだ。『惜しかったね、ママ。今日の誕生日、明日だったら料金も安くなったのに』って。俺はたまたま聞いていた。誕生日割引は使えないけど、我々にできることをやって差し上げたいんだ」
 照れくさそうに直哉は言って、従業員専用のエレベーターに乗り込んだ。そして真剣な表情で資料を読み込む。
 「あのっ」声を発した瞬間に、エレベーターが十五階についた。
 扉が開く。直哉は「開」のボタンを押したまま、私が降りるのを待っていてくれた。
一礼し、エレベーターから出る。   
 「どうした?」
 「あとで……聞いてください。それより仕事」
 十五階には簡易事務所が設置されてある。一通りのОA機器、修理用の工具、応急処置のできる薬品や衣料品、防災用食料など。緊急的に使いそうな物が揃っていた。直哉はフロアマネージャーだが専用の部屋がないため、ここを業務の本拠地としていた。
 部屋に入ると彼はすぐに受話器を取った。役目は終わりとばかりに私が部屋を出ようとすると、掌を開いて「待て」の合図をよこす。仕方なく私は近くの椅子に座った。
 「お世話になります。常彩の神田です。佐山部長いらっしゃいますか?」ビジネスモードに入った直哉は、声音も凛々しいホテルマンそのものだ。
 彼は理路整然と事実を伝え、回りくどい言い方をしなかった。ボックス四部屋を貰う代わりに、何が欲しいか、それだけを相手に訊いた。
 「かしこまりました。では来月、グローバルさんの中国団体、うちの宇治原を専用につけるということで、はい。ありがとうございます」話の内容では、フロント員で北京語を流暢に話せる宇治原さんを、四部屋と交換したらしい。彼は以前北京で商社勤務していた人。中国人ツアーには必ず通訳も同行してくるが、人数が多いと一人では賄いきれず、トラブルの元となっていた。ホテルで宇治原さんが補助につけばグローバルとしても安心だろう。
 静かに受話器を置くと、直哉がこちらに顔を向けた。
 「話はついた。フロントに戻ろう。三上様がいらっしゃる時間だ」

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