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『桃色の絆』相川和彦

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 高いところから胸を張る川島へ、小川は受話器を差し出した。
 「どうぞ。グローバルさんにビシッと、使わないボックスなら返せ、そうお伝え下さい」
 「それは……」口を尖らせた川島が、設置されてある電話の短縮番号を押した。
 結局はいつもこうだ。困ったら自分では動かない。あの人に頼る。
 「お疲れ様です、ええ、助けてもらいたくて。一時間で城島に答えを……」
 川島は受話器を持ちながら見えない相手に頭を下げている。
 「マジっすか!すぐ青木に資料持って行かせますから。やっぱり頼りになるのは直哉さんだけっすよ」
 受話器を置いた川島はすぐにメールをプリントアウトし、私に資料を差し出す。
 「私、ですか?」やんわり苦情を伝えたが、内心では緊張した心がピンボールみたいにあちこちを飛び回っていた。
 「時間がもったいない。早く」
 「わかりました。けど、フロアマネージャーはどこにいるんですか?」
 「今は宴会場だって。下の方」急かされるように私は事務所を出た。 
 常彩ホテルの宴会上は二つ。最上階と地下一階だ。ブライダルも大きな事業の一つだから、結婚式などは景色の良い最上階でとり行う。一般の宴会は畳敷きの部屋がいくつもある地下一階だ。私は従業員専用のドアを開けエレベーターに乗った。B1のボタンを押す。自分を採用してくれた神田直哉を想うと、特別な感情が湧き上がってしまう。しかも彼は、研修中も私を何かと気にかけてくれた。
 『ホテルってさ』社員食堂で食事をしたとき。中庭を見ながら彼は話していた。
 『不思議な空間だと思わない?普段の自分とは少し違う自分になれる気がする。お洒落で、気取っていて、大人になれたようで。その違和感が気分を高揚させる。だから働くこちらも楽しくなる。お客様のそういう気分を感じられるからね』
 彼の笑顔から無邪気さがこぼれていた。三十半ばでフロアマネージャーを任される人だから、優秀なのは間違いない。だが彼は業務の的確さ以上に、お客様を引き立て、ほぐし、快くさせる雰囲気を備えている人だ。
 やがてエレベーターは地下一階に着いた。
 廊下を歩き進めると左右から賑やかな声がきこえてくる。今夜は同窓会が一つと、地元主婦会の宴会が入っていたはずだ。ビール瓶や膳を片付けるスタッフがあちこちで動いている。左右を見ながら歩いていると、顔見知りの女性スタッフがいた。
 直哉の居所を訊くと厨房に顔を向ける。
 「ケーキがどうとか……料理長に、何か頼みこんでたよ」
 「そうですか。ありがとうございます。行ってみますね」
 お礼を言ってその場を離れる。厨房まで急ぎ、私は遠慮気味に中へ入った。
 そこでは湯気が立ち上り、水と食器のかち合う音が響いていた。途端に、醤油と玉ねぎの絡まった甘い香りが漂ってくる。生姜焼きだろう。思わず喉もとの唾を飲み込んだ。
 「ディナーの確認をしたとき、ティラミスの箇所で頷いていたから、プディングとかチョコ系は問題ないと思うんですよ。予算をかけず豪華に見せる。浜さんの真骨頂でしょ!」

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