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『桃色の絆』相川和彦

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 今回は三十代の夫婦と三歳くらいの男の子。問題ないとみて彼女は一歩引いた。
 「いらっしゃいませ」チェックインシートを差し出し、私は深いお辞儀と、男の子への笑顔を忘れなかった。

 
 三時間ほどフロントに立ち、私は小休憩に入った。
 「ずいぶん急な話ですね」
 お手洗いから戻ると、事務所の奥で困った声を出す川島が見えた。二十代後半のがっしり体形。上層部からの受けはいいが、同僚や後輩への細かい配慮は少し欠けている人。
 「ツインにエクストラ入れてもだめですか?」
 私は何の気なしに事務机の一つに座り、パソコンで予約状況などを見ていた。
 四月はまだ一週間を過ぎたばかりだが、稼働率は90%を超えている。しかし来週は春休みも終わり新年度が本格化する。客足も一気に鈍るだろう。
私はどこへ配属されるのか……。ため息をついているとき、 
 「青木、アージェント!四月後半の土曜、ツイン七部屋確認して!」
 電話を切った川島が猛然と私のもとへやって来る。休憩中とも言えず、私はマウスを操作し四月後半の画面にとんだ。横から川島がパソコンを覗いてくる。
 「どこか、ミスりました?」
 「燕グランドから泣きが入った。城島観光、またオーバーブックだよ」
 景観と温泉で売るこの町には宿泊施設も多い。老舗旅館も素泊まりの宿も点在している。だが圧倒的勢力を誇るのは二軒。ここ常彩ホテル・桜リゾートと、有名な名園前に立つ燕グランドだ。どちらも収容できる部屋数が多くモダンな建築。まさにライバルとしてしのぎを削ってきた。首都圏本社の大手旅行会社には、ボックスとして部屋を預け売りしているのも一緒。彼ら旅行会社は、自分達が持つボックスの範囲内でツアーに部屋を組み込んでいく。
 だが時に、旅行会社がツアーの最少催行人数を見誤り、予想以上の客数をとってしまうこともある。団体の場合でも急に参加者が増えたりするのだ。
 そういう場合、ホテルは窮地に立たされる。ホテルにとって旅行会社はサンタクロースみたいな存在。お客様という贈り物を観光バスというソリで運んできてくれる。本来優越はないものの、立場は完全に向こうが上だ。よって燕グランドとは部屋の貸し借りが日常茶飯事だった。
 「ツインは三部屋が限界ですね。シングルとダブルは満室です」
 私はモニター上のルームシートを見ながら答えた。
 「何とかなんねぇかなー」
 そこへチェックインが一段落した小川がやってくる。どうやら私たちのやり取りを聞いていたようだ。彼女は旅行会社との共有システムを開いた。
 「グローバル・トリップなら、ボックスがまだ四部屋残っていますけど。それを城島観光へ譲るわけにもいかないしねぇ」小川はマウスを動かし、他の旅行会社もチェックしたが、すでに他はボックスを使い切っていた。
 「一時間以内に城島へ答え出さなきゃならない。部屋を埋められない旅行会社があるなら、返してもらうのも交渉のうちだよ」

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