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『私の旅は』小山ラム子

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「今日はね、干し柿だよ」
「やったあ! あれ甘くておいしいよね!」
 これは干し柿なのか。そして今の子ども達は干し柿で喜ぶのか。いや、今の子ども達ではない。ここの子ども達か。
「ここ広げればいいですか?」
「ありがとう。お嬢ちゃん名前何ていうの?」
 お、お嬢ちゃん。おねえさんと呼ばれることすらはばかる年齢ですが。
「竹内加奈子です」
「加奈子ちゃんか。ありがとね」
 まただ。また目頭が熱くなった。どうした私。涙腺緩みすぎだぞ。
 子ども達は笑顔で干し柿を食べ、慣れた手つきでお茶をいれている。その内の一人が私にお茶を渡してくれた。
「おねえさんもどうぞ!」
「あ、ありがとう」
 子どもの人懐っこさに驚きながら一口飲む。身体の中から温まるようなおいしいお茶だった。
「結構たくさんあるんですね」
 外観は小さいと思ったけれど、中は意外と奥行きがあり所狭しと本が並んでいる。女性が私の隣にすわってお茶を飲みながら話してくれた。
「ここの本は昔は下の町にあってね。ここと同じような図書館を夫婦二人で開いてたんだよ」
「そうなんですか?」
「それがもう歳でねえ。『町の図書館に寄付してもいいけど、できれば自分達のように子どもの居場所にしてくれるところにお願いしたい』って言ってね。そしたら梨沙ちゃんが、ぜひって引き取ってくれたんだ」
「そうだったんですね」
 見回してみると、確かに絵本や子ども用の本が多い。みんなで謎解きをする絵本もあって、何人かが一緒に夢中になって遊んでいる。そういえば私も小学生の頃ああやって友達と遊んでたっけ。休み時間がびっくりするほど早く終わって。家に帰ったらランドセルを放り投げて近くの空き地で友達と落ち合って。家に帰ったらおいしいご飯があって。あの頃はなにもかもが輝いていた。どうしてこんな大人になってしまったのだろうか。
 思わず涙がこぼれそうになってしまい、慌てて目元を手の甲で拭い取る。
「わ、私本見てきますね!」
 ごまかすように立ち上がって本棚の方に向かう。子ども用の他にも、大人も読めそうな本がいくつかあった。でもせっかくだから絵本でも読もうかな。それこそあの子達がやってるような謎解きでも……。
「ねえねえ! これ読んで!」
 服の裾を引っ張られる。さっきお茶を渡してくれた子だ。手に絵本を持っている。
「え、こ、これ読むの?」
「うん!」
 わたされた絵本をめくってみる。まあいいか。音読だったら得意だ。その場にすわって読み始める。
「うさぎのリリちゃんはとってもいい子です。きょうもみんなをたすけるのにおおいそがし。リリちゃんは森のみんなのことが大好きなのです」
 読み進めていく内に子ども達が集まり始める。子ども達はうれしいことに私の語り口に夢中になっていった。私も子ども達と一緒に物語の世界へと入っていく。
 森の仲間達のことが大好きなリリちゃん。リリちゃんは一生懸命みんなの役に立とうとしてたくさんお手伝いをするけれど、無理がたたってリリちゃんはある日倒れてしまう。リリちゃんの家には毎日たくさんの仲間達がお見舞いの品を持ってやってきた。やがてリリちゃんはすっかり元気になる。そしてそれからは以前のように無理してみんなの手伝いをすることはなくなった。だって森の仲間達が一番うれしく思うのは、自分が元気でいることだって分かったから。

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