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『私の旅は』小山ラム子

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「竹内加奈子(たけうちかなこ)さんですか?」
「あ、はい、そうです」
 駅前でボーッとしていた私の前に一台の車が停まる。中から顔をのぞかせたのは私よりも若そうな女性だった。
「どうぞ乗ってください! 荷物お預かりしますね」
「す、すみません。ありがとうございます」
 女性は私から荷物を受け取りテキパキと後部座席へ入れる。私に助手席に座るよう促した後は、運転席に座りすぐにシートベルトを締めた。
「じゃあ行きますか!」
「よ、よろしくお願いします」
 私以外に乗る人はいないみたいだ。じゃあ私のためだけにわざわざ迎えに来てくれたのかと罪悪感を抱きながらも、これは向こうから言ってきたことだし、と自分に言い聞かせるようにしてそれを紛らわせる。こんなに気が小さいから会社でもいいようにつかわれるんだ。分かっていながらもそれを変えることができない。
 音信不通になった私を心配した姉が訪ねてきたのは二週間前のことだ。不幸にも上司も先輩も後輩も難ありの部署に異動になった私は、死にそうになりながら毎日の仕事をこなしていた。私の顔を見た姉は真顔で一言こう言った。「療養しなさい」と。
「あんたさあ、お人好しなのもいい加減にしなさいよ」
 私の会社の様子を聞き出した姉は、心配半分、呆れ半分のような表情でそう言った。係長は口だけで何もしない、先輩は周りの足を引っ張ろうとする、後輩は言われたことすらできない。実質ほとんどの仕事を私がこなしていた。平日にできなかった分は休日にでてやっている。あまりにも休日出勤が続くと総務から怒られるので最近はほとんどサービス出勤だ。唯一私の苦労を分かっている課長がいるにはいるのだけれど、もうすぐ部長になるという目処が立っている彼は事を荒立てたくないと思っているのが丸わかりで、労いの言葉はかけてくれるが根本的な解決には一切乗り出さない。
「おかしいでしょ。辞めなさいよそんなところ」
「誰かが異動すればまだマシになるかもしれないから」
「その前にあんたが倒れたらどうすんのよ」
「本気でやばくなったら休みとるよ」
「もうすでに本気でやばそうだけど」
 そう言って姉は私に手鏡をわたしてきた。のぞきこむと、青白い、というよりも土色のような顔をした私が虚ろな目をしてこちらを見ていた。思わず「ひいっ!」と小さく叫んで手鏡を放り投げてしまった。
「自分でもドン引きじゃない。せめて休日は休んでよ」
「でも仕事たまっちゃって」
「自分の仕事じゃないんでしょ? そんなもん本人にやらせなさい。はい、決定! 来週は絶対に自分の担当分以外やらないこと! それで土日は絶対に休むこと!」

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