「ら、来週は無理だよ」
「じゃあさ来週! 絶対休みいれるように土曜日に泊まりの予定いれてやる!」
「ええ!」
「止めても勝手にいれるからね。あんたはいい子ちゃんだから、直前の宿泊キャンセルなんて申し訳なくてできないでしょ。宿泊場所もギリギリまで黙ってるから」
よく私の性格を分かってらっしゃる。姉は何度目かのため息をついた後、私をぎゅうっと抱きしめた。
「本当に心配してるんだから」
「うん……ごめん」
「謝るならちゃんと休みなさい」
そんなことを言ってくれるのは世界中で姉だけだ。私はちゃんと休むことを約束したのだがそれも疑っていたのか、姉が宿泊先を教えてくれたのは本当にギリギリの前日の金曜日だった。場所は電車で一時間ほどの小さな町だ。町のホームページを見てみたが、観光場所といえば高原や道の駅、そしていくつかの小さな温泉、といったお世辞にも観光地とは呼べないような場所だった。
「知り合いの家族が経営しているペンションがあってね。ちょっと山にあるんだけど、景色もきれいですごく静かな場所なの。療養にはぴったりでしょ」
「お姉ちゃんも行ったことあるの?」
「泊まりではないんだけどね。いい場所だったよ。知らない土地で気兼ねせずにゆっくりするには一番のところよ」
そして私は今ここにいるのである。
「あ、申し遅れました。私は梨沙(りさ)です。金森(かなもり) 梨沙(りさ)。加奈子さんは礼子(れいこ)さんの妹さんなんですよね」
「そうです。あの、すみません、駅まで迎えになんて無茶をお願いして」
「そんな! 無茶でもなんでもないですよ。あ、こっち来てからどこか見ました?」
「いえ。駅にもさっき着いたところでして……」
観光地じゃないといってもせっかく来るんだから町並みくらいは見ておこうと思っていたのだが、昨日も遅くまで仕事をしていたせいで今日は昼過ぎまで寝てしまった。今週はいつもよりは引き受けなかったが、それでも課長に泣きつかれてしまい、結局いくつかの仕事を肩代わりする羽目になった。昨日までに終わってよかったよ本当。
「お仕事お忙しいんですよね」
「え?」
「礼子さんから聞きました。だからゆっくりさせてあげたいって」
「そんなこと言ってましたか」
「あ、そうだ。加奈子さんは本はお好きですか?」