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『線の上で踊る』森下千尋

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「でも本当の魅力が、今回ようやくわかった」

 「サトルも見てみ」
 節子は入口にある機械を操作し出す。パスワードを入力すると、読み込み中と小型のディスプレイに表示された。
 空間が歪んでいく。かと思えば、目の前から節子の姿が消えていた。

 「なあ、節子。これほんまに撮れてるんかな」
 後ろからいるはずのない人の言葉が聞こえて、サトルは仰け反った。祖父だった。
 爺ちゃんは、落ち着かない様子で部屋の中を行ったり来たりしている。
 「空間まるごと保存する言われてもなあ、カメラみたいにみるとこがあったほうがええんちゃうか」
 何処見たらええんか分からん、と爺ちゃんは諦めたようにソファへと身体を預ける。
 まるでそこに本物がいるようだった。サトルは思わず手を伸ばす。爺ちゃんっ、しかしその手は身体に触れることなく空を切った。
「だいたい残す言うても話すことなんてないしなあ」
 懐かしい声だった。リアリティ、自分が丸ごとこの世界に没入した感覚だった。
「いいんですよ、特になくても」
 今より大分若い節子が、抹茶をトレイの上に載せ歩いてくる。
 「人生の後半にまだ開けてない宝箱があるのも、いいもんじゃないですか」
 節子はそう言い、爺ちゃんへ抹茶を渡す。
 「せやなあ。そしたらタイムマシンみたいなもんやろ。よしわかった。節子は外してくれ。お土産でも買うてきたらええ」
 「え、何です急に」
 さっさ、と爺ちゃんは節子を追い出す。さらに少し間をあけてから、ドアを開け左右を確認した。
「よし、ほんまに行ったみたいやな」
 エー、コホンっと咳払いし、緊張した面持ちで爺ちゃんは話し始めた。
 「何年か後の、俺見てますか。今日は贅沢してここへ来ました。有難いですね、良い時間を過ごそうと思っています」
 卓上の抹茶をクイッと飲むと苦悶の表情をうかべる。
 「うえ、また砂糖入れよったな」
 ガタンっ、奥の部屋から物音がした。誰か来る。
 「じいじ・・・」少年が目をこすりながら、トボトボと歩いてきた。
 そこにいたのは、紛れもなく幼い日のサトルだった。
 「おおっ、さとる起こしてしもたな。ごめんごめん」
 爺ちゃんは狼狽えながら、さとるを抱きかかえた。
 「ばあばはどこ」
 「ちょっと買い物にいっとるよ。そうださとる、何か喋ってごらん」
 無理やりだな爺ちゃんと、大人になったサトルは笑う。
 「うーん、そうだな。さとるは何が好きだい」
 ここに来たことがあったなんて全く覚えていない。自分が出てきた恥ずかしさもあった。
 「さつまいもかぼちゃにんじんじゃがいも」
 さとるが答える。偏りがすごいな、とこちらは思わず苦笑する。
 「じゃあさとるは将来何になりたい」
 爺ちゃんが続けた。小さなサトル越しに自分が訊かれているようでドキッとする。
 「しょうらい? うんと、お花の絵をかいて、それでみんなしあわせになります」
 小さなかれの姿をみて、本当に遠くまで来てしまった、とサトルは思った。

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