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『線の上で踊る』森下千尋

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 サトルと節子を乗せた車は、丘の上に立つ一棟のホテルに到着した。
 辺りは静かだった。秋のはじまり特有の、心地よい風が頬を撫でる。街よりも少し涼しく、空気が凛としている気がした。また、ホテルを囲むように森林があり、そこに潜む植物たちの気配が厳かな雰囲気を醸し出し、白黒のモノトーン調で建てられたホテル&リゾート『ZAI~在』を際立たせている。
 「俺、車を停めてくるから。ばあちゃんは先に中へ入って待ってて」
 サトルは助手席に座る節子へと目を配る。
 「ええ、じゃあそうしようかしらね」
 老眼鏡をかけた眼は外の景色を追っているので、サトルからは表情を伺えなかった。節子から、どうしてもこのホテルに来たい、と言われた時は孝行のつもりで快諾したが、果たして喜んでくれているだろうか。
車をエントランスの方へ走らせると、ドアマンが笑顔を向けこちらを出迎えてくれた。
 「ようこそ、いらっしゃいませ」
 彼は二人分の荷物を軽々と運び、節子のペースに合わせ、ゆっくり寄り添うように受付へと向かっていった。

 サトルが遅れてホテルへ入ると、一歩入った瞬間に彼は目を奪われた。ロビーに、それは大きく立派なオリーブの樹が鎮座していたからだ。実家の庭先に植わっているオリーブと、ここにあるそれは全くの別物だった。
 「すげえ・・・」サトルは樹の前に立ちしばらく呆然とした。鳥肌が立つ。
 天井は遥か高く、空間全体に解放感があった。
 「樹齢二千年になるそうです」
 「えっ」振り返るとそこには、チャコールグレーのスーツに身を包んだ女性がいた。
 「いらっしゃいませ、ようこそホテル&リゾート在へ。私はサービスコンシェルジュの白石と申します」黒髪を後ろで束ね凛とした立ち姿の白石さんは、笑顔を浮かべると一礼した。胸元の金のネームプレートがキラリと輝く。ガラス張りの窓から陽の光がやわらかく射していた。太陽、緑、まるで自然の祝福を浴びるようだった。
 「オリーブは地中海地方が生まれ故郷と言われています。ですが、不思議ですよね。この樹は二千年もの間、何処をどう旅し巡ってきたのか」
白石さんは目鼻立ちがくっきりとしていて聡明に見えた。サトルと同世代くらいだろうか。容姿にはあどけなさが微かに残る。
 「二千年……ピンとこないですね。スケールが大きすぎて」
 教科書で学んだ歴史や時代を、この樹は共に過ごしてきたのだ。長い。いや逆に、人間の一生は短いと思うべきだろうか。見上げていた目線を戻すと、受付のソファに腰掛け、樹を眺めている節子が見えた。目をつむってこの場に身を委ねているようだった。心地よいボサノヴァが空間に流れる。

「当ホテルではお客様の過去と現在が繋がります。本来的な場所へ戻ろうとする、そのお手伝いができる場所。在は、ハイデガーが著した、存在と時間にインスパイアされております」
 サトルには白石さんが言っていることがよく解らなかった。
 白石さんは、すみません、少し難しい言い方をしてしまいましたねと笑う。
「改めまして、渡辺節子様、それからサトル様ですね。今から、本日お泊りになる五〇二号室へとご案内させて頂きます」

 節子とサトル、白石さんを載せたエレベーターがゆっくりと五階へ上がる。
 通路には季節の香りが焚かれていて、金木犀がほのかに香った。

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