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『線の上で踊る』森下千尋

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 節子と白石さんは金木犀やら紅葉やら、花の話題でおしゃべりをしている。
 廊下には西洋絵画が掛けられていて、モチーフはすべて花だった。一部屋ずつの間隔が広くゆとりを感じさせ 黒の絨毯に白の壁面で清潔感あるモノトーン。暖色の照明が気持ちを落ち着かせる。木製の部屋のドアは、ドアノブと五〇二のプレートが金色で揃えられていて重厚感があった。
「こちらでございます」
 白石さんがドアを開け節子、続いてサトルが中へ入った。
 部屋はそれまでの雰囲気とは一変し、うぐいす色の壁、えんじ色のクローゼットやソファ、板張りの床に大きめのベッドが二つ。ほうじ茶色のシーツが掛かっている。奥には畳の間もあり、洗練された和のテイストが窺える。
「おおっ」サトルは窓辺へ駆け寄った。窓の外には竹林が広がり、鮮やかな緑が美しいグラデーションとなっていた。
「夜には照明でライトアップされますので、それもまた綺麗ですよ」
 白石さんは食事の時間や室内の設備など流れるように説明していく。
 だいたいわかるだろうと、サトルは勝手に決めつけて半分は聞き流していた。
「それと、確認ですが。パスワードは覚えてらっしゃいますか」
 節子はええ、と首を縦に振る。
 「承知致しました。お困りになりましたら、何なりとご用命くださいませ」
 白石さんは笑顔で部屋から出ていった。
 「なあ、ばあちゃん。パスワードってどういう」しまった。大事な事を聞き逃した感がある。
 「夕飯まで少し時間あるけ、少し館内でも見てきたらどうね」
 話を遮るようにサトルは節子に促され、渋々と部屋を出る。館内はまるで美術館のように心地よい静かさが保たれていて、時折ゲストとすれ違った。若い人から年配の方まで、幅広い層が泊まっているのがわかった。階段でゆっくりと一階まで下りていく。ロビーの横に喫茶スペースがあったはずだ。そこで珈琲でも啜ろう。旅慣れていないサトルには、ホテルでの過ごし方がそれしか思い付かなかった。
 喫茶スペースまであと少しの所でポケットの携帯が震えた。画面を確認し、サトルは舌打ちする。事務所からだ。納品間近の案件についてだろう。スクロールし通話する。
 「ちょっと、サトルさん。今どちらにいるんですか。メールもしたんですけど! 急ぎなので電話で失礼します。先方からの修正が二点あるんですが」
 事務員の美里が電話口に早口でまくし立てる。
「おおお、悪い。ちょっと運転中でね」
「運転中? 逃げようたって締め切りは迫ってますからね」
 これは長くなりそうだな、と思っていた矢先、白石さんが現れた。彼女は顔の前で大きくバツをつくる。サトルはコンマ数秒考えた後、「悪い、美里さんあとで折り返す」と電話を切った。

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