この声は内装屋の島さんだ。心臓が跳ね飛びそうになった。この壁紙を選ぶとき、散々悩んで頭をひねってようやく完成させたこだわりと思い出が詰まった大切な壁、言葉で言わなくても伝わる完璧な感謝の演出を用意していたのに……。わたしは悲しみと悔しさの眼差しで予定外に飾られた違和感満載の馴染みのない絵を見つめながら、泣きたい気持ちをぐっと堪えインカムにその想い他、全てを込めた重量感のある声を送った。
「近所の学生さんからの『期間限定』のお願いで、すぐ元に戻りますって言って」
インカムの向こうから、一言一句正しく説明をする声が聞こえた。
ため息を鼻から吹き出してキッチン作業に戻ると突然、女の人の怒鳴り声が聞こえた。
「今度は何??」平田さんと顔を揃えてホールを覗くと、レストランのほぼ中央の席に座る若いカップルの女性がすすり泣いているのが見えた。405号室のお客様だった。当然、他のお客さんの視線は全員彼らに注がれている。
わたしはすかさずインカムから相沢くんに話しかける。
「相沢くん、相沢!」
「はい」
慣れて来たのか、相沢くんの返事が俊敏になってきた気がする。
「余計な事をせずに、彼らの方もできるだけ見ずに、席を立たれてもそのままそっとしてね。あと、他のテーブルの接客は普通に続けて」
相沢くんは再び俊敏に「はい」と返事をすると、わたしの指示通り動いてくれた。よし、ナイス。こういう時、特別な対応をすることは逆効果だ。特に同じ女としてわかる。良かれと思ってがとんでもなく余計なお世話になることがあるのだ。そっとしておくのが全部に対しての大正解なのだ。そっと、この場はそーっと……
「お嬢さん、大丈夫ですか?事情を聞かせてください!」
立ち上がったのは村さんだった。何で!!??
せっかく完璧な接客で彼女の感情の二次噴火を阻止したというのに、何でこうなるんだろう!村さんが優しいのはわかる。でも物事にはバランスというものがある。思いつきの行動じゃ、いい結果はずっと運任せだ、そして今回の場合それは……、
その時、彼女がナフキンを机に打ち付けそのまま客室へと走り去ってしまった。(やっぱり……)わたしはため息をついてうなだれた。村さんはまるで他人事の顔でどちらかと言ったらちょっと楽しそうにも見えた。だめだこりゃ。とにかく、ここはお客様のフォローに急いで行かねば、きっとこの状況は結構深刻だ。と厨房を出ようとした次の瞬間、
『シャーンシャンシャンシャン……』
どこかで聞いたことのある、軽快な鈴の音が聞こえた。
「え?何これ?クリスマス?」「サンタ来たん?」すかさず誰かが茶々を入れてそれにつらたホールには一気に笑いが起こった。けれど、わたしだけはそれに全く笑えなかった。というかむしろ、この鈴の音にむしろ嫌な予感しかなかった。シャンシャン音は、勢いよく鳴ったあと、ギシ……っという板が軋む音と引き換えに止まった。わたしはすかさずインカムに話しかける。
「相沢くん、さっきの鈴どこに付けた?」