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『完璧な一周年』二十一七月

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 この小さなホテル&レストランを譲り受けて今日で一年、何とか形になってきた。部屋数10の小さな宿だが、お客様の大切な時間の邪魔をしない『心地よさ』を徹底的に追求し、試行錯誤を繰り返しながら今日まで何とか走り続けてきた。一階に併設したレストランも同じだ。一緒に働くスタッフもそんなわたしの少々熱いこだわりにも完璧に応えてくれる最高のメンバーが集まった。そして今夜、このホテルはめでたく開業一周年を迎える。これまで支えてくれた全ての人にようやく成長した姿を見せ感謝を伝える事ができる。本当に待ちに待った特別な一日。全ての準備は完璧、のはずだった。

 
「……インフルエンザ?」
ホテルレセプションもレストランサービスも完璧こなすサービススタッフのエース河野さんからの電話だった。
「すみません、検査をして、わたしは大丈夫だったんですけれど、娘と妻が同時になってしまって。今日が本当に大切な日だとはわかっていますが、二人を放って置くわけには……」
 河野さんは本当に申し訳なさそうに何度も何度も「すみません」を繰り返してくれた。
「河野さん、謝らないでください。それは当然の事です。こちらは残りのメンバーで回しますから心配しないで、一緒にお祝いしたかったですけど、それはまた今度スタッフでお祝いしましょう。」
 わたしは自分と似たような性格を持つ完璧主義の河野さんの断腸の気持ちがよくわかった。だから、できるだけ明るく大丈夫と繰り返した。そしてそれは、誰よりも自分の為に。
 河野さんとの電話を切ると、わたしはその場にしゃがみ込み大きなため息をついた。今日店に来られなくなったのは実は河野さんだけではなく、アシスタントシェフの横山さん、そして、ルームサービスの高橋さんもそれぞれ、やむにやまれぬ事情で急遽来られないと連絡を受けていたのだ。

「どうすんのよ、今日……」

 普段なら大した事では無い。大きなホテルではないし、スタッフは少ないながらも時間帯を調節して工夫すればレストラン側とホテル側上手くやりくりする事が出来た。でも今日はそうはいかない。今日は通常営業に加え一周年を祝うパーティがあるのだ。招待状は当然もちろん中止になんてできない。いや、する気もない。今日の為に頑張ってきたと言っても過言ではないのだ。わたしは頭を振り気持ちを立て直すと、管理人室に貼ってあったシフト表をもう一度確認した。今日『×』が付いていないのは、わたしと、シェフの平田さんと、キッチンアルバイトの……
「あいざわ……」
 わたしは一瞬想像した悪夢を振り切るように首をぶるぶると揺らし、管理人室を飛び出した。やるしかない。とにかく、やるしかないんだ。ほとんど怨念に近い願いを込めながら階段を駆け下り厨房に向かった。廊下はいつもより空気が冷たく、暖房の温度を上げなければと考えると少しだけ冷静になれた気がした。

 
***

 
「相沢くん、相沢くんー?あいざわあ!!」

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