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『ホテル支配人の夜』小竹田夏

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「そうじゃなくて。寝るタイミングを逃した」
 一気に六田の肩の力が抜けた。 
「すぐに眠れるすごい枕なんてないかな」
「あいにく……」
「そうだよな」
 二宮が肩を落とす。
「アルコールか、ハーブティーなら、ご用意できます」
 二宮はしばらく思案していた。
「ハーブティーをもらうかな」
「かしこまりました」
「ここで飲んでいくよ」
 六田はレストランの照明をつけて、二宮をテーブルの席に促し、厨房でハーブティーをいれた。
「お待たせしました」
 二宮はテーブルに置かれたカップに、ふうふうと息をかけた。
「猫舌でね」
「ごゆっくりどうぞ」
と去りかけた六田を、二宮が引き止めた。
「ああ、ちょっと、あんた……」
「はい?」
「この波の音は?」
 二宮は人差し指で天井を指した。
「有線放送です。他のお客様からの御要望でございます」
「ああ、有線。たしか、俺の部屋にもあったな」
 六田は声量を落として付け加えた。
「そのお客様は、今、そちらのロビーでお休みです」
 二宮は衝立に目をやった。
「ああ、そうなのか。そうか」
 二宮も六田に合わせて声を抑えた。それでも二宮の低い声はフロアに響いて暗闇に溶けた。
 二宮は目を閉じ、あごをほんの少し上げ、耳をすませた。
「うん、いいよな。海はいいな」
 二宮はコップ酒を飲むように口をすぼめて、ハーブティーをすすった。
「うちのかみさんが、海が好きでね……」
 ハーブティーをさら一口飲む。
「海はよく行ったよ。海はよく行ったんだ」
「いいですね」
 六田の言葉に、二宮は斜めの視線で返した。
「どうも照れるな。照れるから、こっちも電気消してくれよ」
 六田は事務所に行って、レストランの照明を落とした。フロントの明かりが淡くレストラン側に伸びる。
「話しにくいから、ここに座ってくれよ」
 二宮の要求に六田は素直に従って、テーブルを挟んで向き合った。
「今、うちのが、そこに入院してるんだ」
「そうでしたか」
「俺、毎日付き添ってるんだよ。同じ病室に寝泊まりしてさ。でも、そういうのって息がつまるだろ。いろんなことを嫌でも考えるしさ。だから今日は息抜き」
「だいぶ、お悪いんですか?」
「よく分からない。俺は電気屋だから、医学のことは分からないんだけどさ、あの病院には専門の偉い先生がいて……」
 二宮は長い病名をすらすらと言った。六田が聞いたこともない病名だった。
 そのとき、衝立の向こうで物音がした。六田と二宮は驚いて、衝立の方に顔を向けた。衝立の脇から人影が浮かび、暗闇の中にただならぬ気配を漂わせている。裕子だった。裕子は二人の方に足早に近づくと、
「その話、もっと聞かせてもらえませんか?」

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