「えっ?ありがとうって?」
「とりあえず、Barに」
そう言って沙都は部屋のドアを開け廊下に出て行く。三人も沙都の後に続いた。
Barに行くとカウンターにプリンが用意されていた。
沙都は先にフロントに立ち寄ると、なにやら頭を下げお礼を言っているようだった。先に入った三人は飲み物を頼みスタンドテーブルを囲んだ。沙都がBarへ入って来て、カウンターからプリンを持ってやってきた。まず取ってきた二つをつぐみと晴人に渡した。
そう言えば、こんな台風の中プリン買いに行こうとしてたな、とつぐみは思いながらそれを受け取った。
「これ、どうしたの?」
つぐみが聞くと
「プリンを買いに行けなくて困っていたら、ホテルの人が作ってくれるって言ってくれて。いいホテルだね」
沙都は晴人に向かってそう言った。晴人は嬉しそうに頷いた。
「これ食べて」
そう言うと沙都はもう一度カウンターに向かい自分と武蔵の分を取ってきた。
武蔵にプリンを渡すと、沙都は武蔵を見た。
「こんな所まで追い掛けてきてごめんね。はっきり言ってくれていいから。プリンもあるし」
沙都は微笑むと、「あ、スプーンないじゃん」と言って取りに行ってくれた。
「プリン、なんでプリン?」
つぐみが不思議そうに武蔵に聞いた。
「喧嘩してギスギスした時、二人でいつもプリン食べてました。沙都が、プリンを食べると優しい気持ちになるって笑って言ってた」
つぐみは手の中にあるプリンを見つめた。
沙都が戻って来て皆にスプーンを渡した。皆黙ってプリンを口に運ぶ。ひんやりとしたプリンが、プルンと柔らかく口の中に心地いい食感を与える。鼻に届く優しい甘味が体に行き渡る。こんなに味わって食べたことないと思いながら、つぐみはプリンを味わった。
晴人は沙都の方を向くと、
「さっきはきつい事言い過ぎた。ごめん」と言った。
沙都はフルフルと頭を振り、
「こっちがです。本当ごめんなさい」と謝った。
そしてつぐみの方を見ると
「私こそだった。私がウザくて、人を舐めていた。ごめんなさい」
それを受けたつぐみは
「私だってある。言い過ぎたとか、言わなければ良かったとか、いっぱいある。沙都さん言うように、職場うろつかれたら邪魔だよね。私だって考えなしだった。教えてくれてありがとう」
「いや、それは、でもあんな言い方なかった。たぶん八つ当たりも入ってた。本当ごめんなさい」
再び沙都は頭を下げた。
「八つ当たりかよぉー。八つ当たってないで本人にぶち当てろよ。二人共篭ったりしないでさぁ。ムサッチちゃんと受け止めてやれよぉ。そんで受け止めてもらえよっ」
つぐみは武蔵の背中を叩いた。武蔵はいててとよろけると、小声で晴人に「つぐみちゃんて、なんか凄いね」と呟いた。
「会ったばっかで何にも知らないけど、話をしたら、違うかもしれないよ」
つぐみは沙都の肩をポンッと叩いた。
「え?」
つぐみと晴人は、隣のテーブルに移った。
その時つぐみが武蔵を見て、頑張れとガッツポーズを作って見せた。
「別れようなんて微塵も思ってない。逆だよ。そうならない為に、どうしたらいいかを一人でじっくり考えたくてホテルに来たんだ。黙ってごめんね」