つぐみの顔は強張り、青ざめた。すると晴人が、
「仕事場だからね、それは突っ込まれても仕方ないことだけど、ウザくはないよ。下手だし、バカっぽいけど、邪魔しないように一応変装して来たり。学生だからね、あんたから見たらまだまだかもしれないけど、こいつはこう見えていつも人に対して一生懸命考えてるんだ。それより、そんなことを正論振りかざすかのように言っちゃってるあんたの方が、人としてどうだよって思うけどな。あんたは人を舐めてんじゃないの?」
と言った。
沙都はハッとして顔を固まらせると、慌ててバスルームに駆け込み篭った。
「ごめん、言い過ぎたか」
晴人は武蔵を見て謝った。
「いえ、今のは沙都が悪い。失礼でした。ごめんなさい。つぐみちゃんもごめんなさい」
武蔵は頭を下げた。
「んで、なんで篭るの?」晴人はバスルームの扉を指差して聞いた。
「ごめんなさい。防衛本能ってやつ。攻撃されることに慣れてない」
「だからって、さっきのムサッチといい彼女といい、二人して人の部屋のバスルームに篭るなよなっ」
つぐみは怒る風でもなく、冗談っぽくそう言った。
「ムサッチ? いや、本当ごめんね。次から次へと」
「出て来いっ」と言ってつぐみはドアを叩いた。
バスルームからは何の音もしない。
「もう少し待ってやって下さい。多分泣いているのかも」
「あれぐらいで? 自分はあんなに攻撃的なのに?」
つぐみは純粋に驚いて聞いた。
「そうだよね、人には強く言うくせにね。繊細過ぎるんだ。だからいつでも虚勢張ってないといれない。でも泣いているのは、申し訳なくてだと思う。傷つけたことに今気付いたんだと思う。言う前に考えないとダメだよね。感情がすぐ先走るから、バカするんだ。本当ごめんね」
「ならさ、自分で謝らないとダメじゃん。目の
前で失敗したって泣かなくちゃダメじゃん。いつまで経っても自分が傷ついたままじゃんか。はよ出て来いっ!」
つぐみはもう一度ドアをドンっと叩いた。
その時、館内放送が入った。
『ご宿泊の向井沙都様、Barの方へお越し下さい。繰り返します。ご宿泊の――』
「沙都? なんで? しかも部屋取ったんだ」
『続けて失礼致します。皆様、お寛ぎ頂けているでしょうか? 本日は、台風という悪天候の為、お客様には外出を控えて頂いております。外に出られない今宵に、ほんのひとときの時間をお届け出来ればと、Barの方にプリンをご用意致しました。是非、お越しください』
「プリン……」
武蔵が呟くのと同時にバスルームの扉が勢いよく開き、少し目の赤い沙都が出て来た。
そしてつぐみと晴人に頭をしっかりと下げ、「さっきは酷い事を言ってごめんなさい。それに、ありがとう」と言った。