騒いでいると、バーテンダーの人が近くに寄ってきた。察した晴人はすみませんと言って、とにかく一旦出よう、とBarから出た。
とりあえずつぐみの部屋に行くことになり、皆で向かった。
行く途中、「晴人仕事は?」とつぐみは聞いた。
「台風で今日泊まりになって、明日の早番に出て欲しいから、今日はもう上がっていいって言われたんだよ。折角だからずっと行ってみたかったBarに行って、つぐみに連絡入れようと思ったらつぐみの姿を見つけて…
偽者だったけど」
晴人は武蔵をじろりと睨んだ。
「なので浮気なんかしてませんから」
「わ、分かってる。ごめん」
晴人は目を細めながらも、つぐみの頭に手を乗せた。
部屋に着いたので中に入ると、まずはつぐみと武蔵の服を交換して元に戻した。着替え終わると、沙都はつぐみに聞いた。
「なんで武蔵の服を着てたのよっ」
つぐみは武蔵の服を着る羽目になった経緯を話した。そして、
「なんでBarに行ってたのよ。人の服まで着て」
と言ってジロリと武蔵を睨んだ。
「いや、それはそのー、つぐみちゃん帰って来るの遅いから、雨も強くなってきて大丈夫かなと様子を見に行こうとして……」
そこまで言うと武蔵は口籠った。
「そんなに嫌だった? Barに入ったのも、私を見かけて逃げ込んだんでしょ。逃げてばっかり。そんなんだったら、とっとと別れたらいいじゃない」
「そうじゃないよ。そんなことない」
「じゃあなんで一人でホテル泊まるとか、人の顔見て逃げ出したり、なんなのよ」
武蔵は黙り込んだ。
「一人で考えたいって言ってた」
つぐみがそう言うと沙都はつぐみを睨んだ。
「あんたが何を知ってるっていうのよっ。大体あんたは誰で何しにここに来てんのよ」
「だから、私はたまたまここで出会っただけだってば。どっちかって言えば、怖い思いしたからね。私は晴人の仕事してる姿をひと目でもいいから見たくてこっそり泊まりにきただけよ。まぁバレちゃっていたけど」
つぐみはチラッと晴人を見た。
「それで晴人が次の日に、私が泊まっているホテルに出勤してくるの。そう言うなんだか不思議な感じを味わってみたくて」
「ウザッ、何それ、全然理解出来ない。そんな彼女に職場チョロつかれたらウザいでしょ」
沙都は晴人を見た。
「いや、そんなことは」
「アホくさ。バカップルってやつ? こんなとこ勝手にひょいひょい現れちゃう彼女とかどーなの? 怒らなくていいの? どんどんエスカレートするよ。人としてどうよ。社会人舐めてんじゃないの」