つぐみが悶々しながら柱にしがみついていると、突然腕を掴まれた。
「ちょっと、これ
武蔵の服じゃない? ねぇどういうこと? 武蔵とここに泊まってるの?」
凄い勢いで詰め寄るその人を見ると、さっきプリンを買いに行こうとして引き止められていた女性だった。
「やっぱり他に女がいたってことなの?」
問い詰められたつぐみは逆に女の腕を掴み「ダァーーー」と急に泣き出した。
「な、なんなのよっ」
「他に女がいたのかって、それはこっちのセリフよー」
「やっぱりそうなのね。やっぱり武蔵の――」
「武蔵武蔵なんなのよー。今は武蔵どころじゃないのよー。あいつはあいつで見つけたらただじゃおかないっ」
「何よ、ただじゃおかないって? あんたは何してるのよ?」
「うわっ、見て! う、腕掴んでるっ。ねぇ、掴んでるよね?」
「え? 何? 誰が?」
Barにいる晴人が、隣の女性の腕を掴んでいた。
「私、行ってくる」
意を決してつぐみはBarへ向かった。
「えっ? ちょっと」
つぐみの後を、女も追い掛けた。
Barに入るなりつぐみは怖い顔で晴人の背後に立ち声を掛ける。
「これどーゆうことっ」
「つぐみ」
晴人は振り返りつぐみを見たが、晴人が隣の女性の腕を離すことはなかった。
「な、なにしてるのよっ。仕事じゃないの? この人誰よ! よ?」
心が折れそうなのを耐えながらそう聞くと、誰よ!の瞬間隣の女性に目をやったつぐみは、アングリと口を開け間抜けな顔になった。
その後ろからつぐみを追い掛けてきた女性が
「そんな格好して何してんのよっ」
と顔を出すと、晴人の隣にいた女性が慌て出す。
「さ、沙都! えっ? なんで沙都がつぐみちゃんと一緒に?」
晴人の隣の女性は女装していた武蔵だった。
「サトって、あの沙都? てゆーか、あんた人の服着てどーゆうつもりよっ! バスルームに篭ってるんじゃなかったの? しかも晴人のこと口説いてるし、訴えてやるっ」
「やっぱりこれつぐみの服かよ。つぐみがBarに入って行ったと思って来てみれば男だし。バスルームに篭るってなんのことだよっ」
晴人は武蔵を掴んでいる手を強めた。
「え? 私来てたのバレてたの?」
つぐみは驚いて晴人に聞いた。
「ベルボーイ舐めんなよ。お客様リストぐらいチェックするんだよ。バレバレだよ。変装してるから逆に隠れて見てたよ」
「えぇーーー」
つぐみが驚いて仰け反ると、隣では沙都が武蔵に詰め寄っていた。
「バスルームってなによっ。口説いてるってなによっ。相手はこの女なの? それともこっちの男なの?」
「い、いやどっちも口説いてないよー」
ウイッグを被っただけでも結構可愛くなっている武蔵が沙都に言った。
「もぉ、誰に何から突っ込んでいいのか分からないっ!」