お店も『地方名カクテル』も特に変わることなく続いている。ただ、カクテルについてはお客の意見も取り入れて改良を続けている。
スタート時は作るのが大変だったけど、今はやって良かったと思っている。
「あ、井上さん。」
立花君の声に反応して入口を見る。そこには笑顔の井上さんが片手を挙げてお店に入ってきていた。そしてそのままカウンターに座る。
「久しぶりだね。」
「お久しぶりです。お仕事ですか?」
「そう、また出張でね。」
「ありがとうございます。何飲まれますか?」
「この間のは出来上がったの?」
楽しそうに聞いてくる。
「はい。おかげさまで全部出来ました。」
「いいねぇ、じゃあ『東北』を貰おうかな。」
「宮城県でしたよね、地元は。」
「そう、この前試飲は沢山したけどね。」
「『東北』でいいんですか?」
「いいよ。せっかくだし。」
「分かりました。」
そう言って、ヨーグルトのリキュールを手に取り、カクテルを作り始める。
「反応はどう?」
「悪くないですよ。」
「そう、よかったねぇ。」
「でもやっぱり47都道府県のカクテルを作って欲しいっていう方が多くて。」
「え?じゃあ作ろうよ。」
なんの抵抗もなく井上さんが提案する。
「ちょっと待ってくださいよ。結構メニュー作るの大変なんですよ。」
「分かってるよ。でも俺も手伝うからさ。」
「・・・。」
簡単に言ってくれる。そう思ったが、なんとなく嫌じゃなかった。これが一ノ瀬だったら即断っていただろう。
「やっぱりやった方がいいですかね。」
「うん。だってその方が頼む方も楽しいよ。」
「・・・。」
「それにさ、俺、実は甘いのは少し苦手なんだよね。」
「え・・・。」
作っていたカクテルの手を止める。
「あ、大丈夫、飲めるから。」
「すみません。」
「だからさ、47のカクテル考えてみようよ。」
「じゃあ、やってみる?」
隣で聞いていた立花君の顔を見る。
「47・・・。」
そう言って目を閉じている。
「ちょっと何弱気になってんの。大丈夫だよ、その方が絶対良いって。立花君!」
「え~、でも。」
「決まり!やろうやろう。」
楽しそうにこちらを見る。ちょっと今回は流石にきついかもしれない。でもやったらお客様も楽しんでくれるのは想像できる。
やはり思いきってやるべきだろうか。
「・・・じゃあ立花君、頑張ってやってようか。」
「・・・じゃあ時間下さいね。あと駒ヶ根さん半分お願いしますよ。」
観念したように苦笑いしながら立花君は応えた。
「よし、じゃあどこから作る?上から?それとも下から?」
すでにノリノリの井上さん。
「どうしましょうか、せっかくだから宮城から作ってみますか。」
「よし、じゃあそうしよう。」
「あれ・・・。」
こちらをよそにまた立花君が入り口に目をやる。入り口をみると女性が立っている。
「おお!皆川さん。」