「それは石川。」
「ひつまぶし。」
「それは愛知。」
「みそカツ」
「それも愛知。」
それからいくつかのイメージを出しあったがなかなかピンと来るものがない状態が続いた。
「あの、ちょっといいですか?」
悩みまくっている三人の横から女性の声が差し込まれた。
「なんの話をしてるのか気になっちゃって。」
「すみません。うるさかったですね。」
三人は頭を下げる。
「特産品とか名所みたいな話ですか?」
女性は興味がありそうな顔で聞いてくる。20代後半だろうか、スーツを着たほんわかした雰囲気の女性だ。
そこからその女性に事の経緯を説明した。
「それじゃあ、日本アルプス!」
女性は満面の笑みで答える。
「飛騨山脈、木曽山脈、赤石山脈、中部地方はこれが代表的な感じじゃないですか?」
「おお~、詳しいね。」
井上さんが感心する。
「一応、長野出身なんで。」
今度は三人が「おお~」と声が漏れる。早速立花君がネットで検索する。
「ん、でも愛知と石川と福井はその山脈に入ってないですね。」
「それは・・・まぁ、代表的なものだから。」
すかさず井上さんがフォローに入る。その言葉にみんな互いの顔を見合わせ頷いた。
「じゃあ日本アルプスで行きましょうか。それじゃあ山のイメージですよね?色だと何だ?緑系ですかね。」
自分の提案に全員が賛成する。
そうなると次はカクテルの材料探し。
『山脈』からイメージされるものは、『壮大』『爽快感』『自然』だった。
そしてあれこれとまた試作品をいくつか作り『中部』が出来上がった。
ジン45ml、ペパーミントグリーン15ml、トニックUP。
「いいんじゃないですか。爽快感もあるし、スッと抜けるような感じがして美味しい。」
女性は笑顔で褒めてくれた。
ちなみに女性の名前は『皆川さん』と言って、長野から仕事でこのホテルに泊まっているという。
「良かった。じゃあ『中部』はこれで行きましょう。」
皆川さんの薦めもあって『中部』は決まった。
「ありがとうございます。」
「なんかこういうの作るの楽しいですね。」
「そうそう、ああだこうだ言ってるのは『作ってる』って感じがするしね。」
「それじゃあ明日は僕のも手伝って下さい。」
立花君の言葉に二人は申し訳なさそうな表情をなる。
「あ、ごめん、明日は無理だ。」
「私は明日帰ります。」
「え~。ちょっと待って下さいよ~。」
立花君はがっくりと頭を下にもたげる。その落ち込み様に三人はどっと笑う。
「またこっちにくる予定が出来たら寄るからさ。」
「私も来ますよ。」
「じゃあ、今、ちょっとだけ、俺のも一緒に考えて下さいよ~。四国、四国を少し考えてみましょう。」
「分かったよ。そんなに焦んなくてもいいじゃん。」
井上さんの突っ込みにまたみんな笑い、そして二人は閉店まで付き合ってくれた。
井上さんと皆川さんが帰ってから数日後、自分と立花君はカクテルを全て完成させた。
メニューにするにあたって、各地方に色分けした日本地図を作り、小さなスタンドに乗せてカウンターと各テーブルに置いた。お店の前にも『地方名カクテル』の立て看板を作った。
「あからさまっすね。」
立花君が突っ込む。
「いいんだよ。少しくらい目立たせないと誰も頼んでくれないでしょ。」
「そんなもんですかね。」
「そう。そんなもん。」