このオヤジ、勝手な事言いやがって。作るのこっちだぞ。と心の中で毒づいた。
「47品目を作る材料なんてうちには置いてませんよ。」
「頼めばいいじゃん。」
「・・・。」
てめぇこの野郎、頼んで済むんなら頼んでるよ!とさらに心の中で毒づく。
「そうすると試作も含めて相当時間がかかりますよ。一之瀬さんにも手伝って頂けるんでしたら話は別ですけど。」
「・・・じゃあ地方名でいいよ。それで様子を見よう。」
一ノ瀬はそう言って自分の仕事に戻った。あまりにも勝手な物言いにカチンと来てしまった。
お店に戻り立花君にOKが出た事を報告する。
「半分は駒ヶ根さんも協力してくださいね。」
「分かった。」
調べると地方は全部で北海道、東北、中部、関東、近畿、中国、四国、九州・沖縄の八つで分れる。
それぞれの特色や特産品なども取り入れてオリジナルのカクテルを考える事になった。分担は自分が北海道、東北、中部、関東、そして立花君が近畿、中国、四国、九州・沖縄を担当する事で決まった。
お店にはカウンターとテーブルに数名のお客が入っている。
「・・・。」
案の定、仕事中はずっとオリジナルカクテルばかり考えている。まずはベースを考えなくてはいけない。例えば、北海道ならなんとなくメロンっていうイメージが出来る。メロンのリキュールはあるからそこから組み合わせを考えればいい。
しかし他の地方がどうにも思い浮かばない。
東北は何だ?桃か?いや、それは福島だ。
「・・・。」
どうやって表現すればいいのだろうか。大体のカクテルのレシピは分かっているつもりだが、『これ』と指定されると苦手だ。じゃあ東北は一度飛ばして中部地方を考える。
「・・・。」
ますます分からない。これを全部で五つ考えなくてはいけない。かなり気が重い。
「はぁ。」
思わずため息をつく。
「何でため息なんかついてんの?」
はっとして顔を上げるとカウンターに座っている男性客の一人が苦笑しながらこちらを見ている。
「あ、すみません。」
「いや、良いけどさ、あからさまだったから。ビールおかわり貰っていい?」
「はい、すみません。」
かなり恥ずかしい所を見られてしまった。空いたグラスを下げて新しいビールを注ぐ。
「嫌な事でもあった?」
先ほどの男性が話しかけて来る。
「いえ、つい出てしまって。すみません。」
「ついね。ねぇここら辺で観光する所ある?」
「観光ですか?」
「出張で来たんだけど、明日少し時間が出来たから少し観光しようかと思って。」
「東京タワーとかでしょうか。それともスカイツリーとか。」
「スカイツリーね。東京タワーは昔行ったことある。やっぱり東京っていうとそこら辺が出てくるよね。」
「どちらからいらっしゃったんですか?」
「宮城。」