勢いに押されて返事をしてしまった。他の人間を見ると「それがいい」と言わんばかりに頷いている。
何となく出て来た話でこんな事になってしまったが『楽しんで貰える』企画なんて何も浮かばなかった。
「・・・。」
それに一之瀬は絶対に手伝ったりしない。そういう男だ。
店に戻り早速どんな企画があるか考え始める。
まぁ、そんな簡単に思い付くはずはなく、仕事中もぐるぐると思案が続く。
「駒ヶ根さん、何か思いつきました?」
従業員の立花君が眉間にシワを寄せながら聞いてくる。
「ん~、特に何も。」
「っていうか、これって会議で突然出てきた事なんですよね?」
「そうだよ。でも最後に一ノ瀬さんがこっちで考えろって。」
「一ノ瀬・・・あの野郎。」
立花君が面白くない顔をする。気持ちは分かる。一ノ瀬は一言で言うと嫌な奴だ。口ばっかり挟んでくるし、面倒な事はすぐ逃げる。
「料飲部門仕切ってんのあいつなんだから、あいつが考えればいいじゃないじゃないですか。」
「まぁ、ぼやいてもしょうがないでしょ。とにかくさ、何か一緒に考えようよ。必要なら予算も出るみたいだからさ。」
「分かりました。」
しぶしぶながら立花君は頷いた。
次の日に早速立花君から提案があった。
「ご当地のお酒なんかいいんじゃないですか?」
「地酒って事?」
「いや、そうじゃなくて、ホテルって日本全国色んな所からお客様が来るじゃないですか。だから例えば東北地方から来た人は『東北』って名前のカクテル。関東なら『関東』、近畿なら『近畿』、って感じで地方の名前をつけたら少しは楽しんで貰えるんじゃないですか?」
「ん~、地方名のカクテルね。」
「そのまんまですけどね。」
「だったら都道府県の方が良くない。」
「47もありますよ。」
「まぁ、そうだよね。ちょっと多いかな。」
さすがにそれは気が遠くなる数だ。
「試しにやってみませんか?他に良さそうな案も出てきてないし。」
「・・・そうだね、ちょっと一之瀬さんに話してみるよ。」
これはアイディア勝負になりそうだ。それにやるなら宣伝もしなくちゃいけない。ホームページに掲載するのは直ぐには出来なさそうだから、それ用の看板を作らないと。と頭の中で今後の事を考えた。
「ふ~ん、いいんじゃない。やってみてよ。」
たいして興味なさそうに一之瀬は了解した。
「上には言っとくから、今度の会議にはどんな感じだったか報告出来るようにしといてよ。」
「勝手に進めていいんですか?」
「いいよ、たいして予算も掛からなさそうだし。でもさ・・・。」
鼻で笑いながらこちらを見てくる。
「都道府県でやった方が良くない。」
「・・・。」
やはり突っ込んできた。誰が聞いてもそれは思う。
「だけど47ですよ。」
「でも細かい方が頼むお客さんは楽しいと思うけど。地方じゃなくてそっちにしたら?」
「ちょっと待って下さい。」