それから二人を見た。利発そうで清潔感のある真面目系眼鏡男子といった風采なのに意外と口が悪い道林と、素朴で垢抜けないがしっかり化粧して三つ編みをやめればそれなりにモテそうな足立。道林は生まれも育ちも東京の生粋のシティーボーイで、足立は俺と同じくらいのド田舎出身。
この光景は奇跡なんじゃないかと思うことが俺には時折ある。その度に、この街のもつ精神的に作用する引力のような茫漠とした力をひりひりと感じる。本当に不思議なところだ、東京って。そして相変わらず暇そうだな、こいつら。
「……いつも暇そうだよな、お前らって」
「お前もな」「のはらくんもやろ」
口をそろえて二人は反論する。
「そういえば実、さっきの就職説明会ちゃんと聞いてたのか? 俺が見たときずっと頭下がってたけど」
「今から将来ビジョンを明確にしておかないと周りに置いていかれるって話だろ?」学外から来たという就職アドバイザーの顔と声を俺は思い浮かべる。「でもあの人、理系の学生はほとんどが大学院に進学するって言ってたし、真剣に考えるのはそれからでもよくね?」
これみよがしにため息をつき、あのなあ、と呆れたように道林は言う。
「この夏にはインターンがあるしそれが終われば研究室配属もあるから、やりたいことはもう決める時期だとも言ってただろ? それに進学するにしても専門的な技術や知識を学ぶわけだから、どのみち計画はたてておくべきなんだよ」
理系って大変そうやなあ、と独り言のように呟く足立を横目に、俺は訊いてみた。「お前らはやりたいことあるの?」
「俺はスーパーゼネコンに就職してバカでかい建物を設計しまくる」
「私は教師! ……あ、高校で国語科ね」
「お前があ?」俺と道林がハモる。
「な、なによ! 標準語はこれから覚えるもん!」
そういう意味で言ったのではないが、その見た目で高校生に舐められないようにしろよという言葉は胸のうちに留めておいた。ちなみに、俺と道林は工学部で足立は教育学部である。最近は教育実習の準備とかでわりと忙しそうにしているが、いそいそと頑張っているらしい。
そして二人の視線が俺に移る。それでお前は?と聞こえてきそうな目で発言を促してくる。予習するのを忘れた授業で先生にあてられたときのような気まずさを抱えながらも、俺は憮然と口を開いた。
「……迷走中だよ」
「建設業界じゃないの?」と、驚いたように目を丸くして道林が言った。「お前が設計図をかくの苦手なのは知ってるけど、施工管理とか営業の仕事だってあるし、てっきりそっちの道に進むもんだと思ってたよ」
「そうなんだけどなあ……。なんていうか俺、そっち系の仕事には向いてない気がするんだよ」
「あー、それ分かるかも。その分野を学びたくて大学に入ったけど実際にやってみたらなんか違った、みたいな状態でしょ? いるいる、私の学部にもそういう子」
「そればっかりは……まあ難しいところだよな」と道林。
うーん、と眉間にしわを寄せて三人で唸る。そのとき、テーブルの上に置いていた俺のスマホの真っ黒の画面がパッと明るくなった。俺は当然なのだが道林と足立まで一緒になって覗き込む。それはメッセージの受信通知だった。差出人は、山中さん。内容は──。
「……あれ、今日って何曜日だっけ?」