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『なんか』室市雅則

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「喜んでくれますかね?」
「そりゃ分からないけど」
「おやっ」
 お前が質問してきたんだろうに。
 沼田は立ち上がり、階段下の向こうの方を見た。それにつられて俺も見ると一人の女性が宿から出て来たところだった。
「わわわ、ルルちゃんではありませぬか」
 沼田が慌てて身を屈めた。
「ラッキーじゃねえか。声かけて来なよ。応援していますって」
「そそそそんな恐れ多い。それにプライベートですし」
「変な所、冷静だな」
 アイドルに興味のない俺から見ても確かにルルちゃんは可愛かった。沼田が彼女にハマるのも分からないでもないように思った。沼田は隠れるようにしている。ルルちゃんは自分が出て来た宿の方を見ている。そして、ルルちゃんはとびきりの笑顔になった。『幸せ』って言葉を顔に貼り付けたみたいに。方や、沼田は硬直した。男が出て来て、ルルちゃんと手を繋いで歩き出したのだ。しかもこっちに向かって来る。
「おい、沼田。行くぞ」
 沼田はメデューサに睨まれてしまったかのように動かない。俺は沼田の頭を叩いた。
「や、蓮見殿。ここは」
「しっかりしろ。行くぞ」
 俺は沼田を足湯から引っ張り出し、二人して濡れたまま靴を履き、ルルちゃんから逃げるようにしてバス停に向かった。途中、俺と沼田は何度もルルちゃんがいる方向をこっそりと確かめた。何度見ても、ルルちゃんと男の手は繋がれたままだったし、ついでにキスもしていた。

 俺たちはバスの一番後ろに座り、沼田は顔に膝を埋めていた。
 どんな言葉をかけて良いか分からなくて、俺は黙ってバスに揺れるしかできなかった。兼六園に差し掛かった辺りでは、すでに多くの乗客がいたが、沼田が堪え切れなくなったのか声をあげて泣き始めた。
「降りるか」
「……はい」

 俺たちはふらりふらりと歩いて犀川の河原に腰をかけた。
 沼田はまだ泣いている。
 俺は自販機で缶コーヒーを買って来て、一つを沼田に渡した。
「ありがとうございます」
 そう言って沼田は缶コーヒーを開けて口をつけた。
「苦いです」
「ブラックだからな」
「初めて飲みました」
「大人の味だろ?」
「はい」
 ゴミがカバンから『モコモコメイツ』の今日のチケットを取り出した。
「どうするんだよ? 行くのか?」
「あんな姿を見てはもう……。なんか……」
 この場合の『なんか』は分かる。応援する気が失せたとか嫌いになったということだ。
 沼田がチケットを破こうとした。
「待てよ。ルルちゃんの脇が甘いのは悪いけどさ、彼女も一人の女性だし、好きな男といるのが悪いことか?」
 沼田は川の流れをじっと見ながら次の言葉を考えているようだ。
「……蓮見殿が仰る通りです。ルルちゃん、幸せそうな顔をしていました」
「ああ。可愛かったな」

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